| 「くっ…」 喉の奥から漏れる音。
 「ふっ…んんっ」
 必死に唇を噛んで声が出ないよう堪えている。
 「謙一郎」
 それでも自分は、深く、深く謙一郎の狭くて小さな入り口を、無理矢理こじ開け、楔を打ち込む。
 「くあっあぁ」
 ゆっくり、ゆっくりとギリギリまで引き抜き、又深く打ち込む。
 「温っ、駄目、イクッ」
 何度目かの抽挿で謙一郎は果てた。
 「一杯出た。」
 「エッチ」
 耳まで真っ赤にして、恋人は抵抗した。
 何回、この身体を自由にした?
 自分の欲望の為に全てを捨て、恋人の元へ来て何年、経ったのだろう?
 いとおしくて手放せない。
 しかし、そろそろ解放してやらなくて、いいのだろうか?
 謙一郎には家族がいない。
 自分とともにあると、このまま永久に謙一郎の血は絶えてしまう。
 「どうしたの?」
 寂しげな目元。
 「謙一郎は、好きな女性はいないのか?」
 
 
 「信じらんないよ、全く。」
 「そりゃあ、睦言には不似合いだな。」
 朝から謙一郎は一郎さんに文句を垂れている。勿論、攻撃の相手は僕だ。
 「おはようございます。謙一郎、一郎さんに私の悪口は言わないでくれ。あとできちんと話すから。」
 唇を尖らせて、子供のように拗ねている。
 「…謙一郎の、子供が欲しい。」
 「は?」
 「謙一郎の血を分けた子供が欲しいんだ。」
 「多分、もういる。」
 突然の告白に、僕は驚きより先に悲しみに襲われた。
 「学生のとき、ニューヨークへ遊びに行ったときに精子バンクへ預けた。すぐに連絡があったよ。」
 なんだって?
 「世界のどこかに僕の子供が居る。それでいい。」
 「謙一郎、僕は出身大学をきいていない気がする。」
 あれは確か、高学歴が条件だったような。
 「忘れたよ、昔のことは。」
 一郎さんといい、謙一郎といい、高学歴だったなんて。
 「店を、閉めましょう。本店を残して後から始めた二店を閉めて、真剣に商売を考えましょう。」
 「反対!僕は八百屋がいいんだ。顔馴染みも増えたし、辞めたくない。」
 しかし勿体ない。
 「絵を、描いていた。学生時代は絵を描いていた。」
 え?
 「僕は勉強が嫌いだ、経済は学んでない。ずっと絵を描いて生きて行きたかったんだ。だけどそれは無理だとわかったから 無難な選択をした。」
 「ごめん。」
 「温さんは時々変なことを言い出す。僕はじいちゃんがいて、温さんがいる、この時間が大切なんだよ?愛する人とずっと一緒にいたいと、思ったらいけないだろうか?」
 「あっちゃん、家族は遠慮なんかしないんじゃないか?」
 一郎さんはにっこりとこちらを見て笑った。
 そうだ。自分が謙一郎の家族を作りたいと一郎さんに頼んだのに。
 「幸せすぎて、ボケていました。」
 「サンタのじいさんは願いを叶えてくれただろう?」
 「はい。」
 掛け替えのない家族。隠し事もせず、なんでも言うことができる家族。
 「じいちゃんは何が欲しい?」
 すっかり話題はクリスマスに変わっていた。
 「庭に、ポインセチアを植えたいな」
 「え〜?あれって暑いのは駄目なんじゃないかな?鉢植えにした方がいいよ?」
 「暑いのが駄目なんじゃなくて、寒いのが駄目なんだよ。ま、あまり長い時間陽に当ててもいけないんだ。」
 「へぇ〜」
 ポインセチアか…。花言葉は『聖なる願い』。
 「謙一郎の願いは何?」
 「どうしたの?突然。僕の願いは温さんとずっと一緒にじいちゃんの家に居候できること。」
 小さく、舌を出して笑う。
 君の願いを、私が叶えてあげよう。
 「解った。温室を作ろう。玄関ポーチにアーケードを作って、そこに季節の花を並べられるように。いつでも奇麗に咲き誇る花を見られるように。それでどうだろう?」
 二人が納得したように頷いた。
 「あっちゃん、ありがとう。」
 「温さん。」
 「謙一郎は花屋になれば良かったのにな。」
 その言葉に、二人が弾けた。
 「それっ、すっごくいい。」
 …二人とも気付いていなかったようだ。
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