謙一郎&温シリーズ
=花『お花屋さんの作り方』
「本当にいいのかな?」
 謙一郎が喜ぶことならなんだってやってあげたい。
「でも…これから色々勉強してそれから始める。」
 言い出したら頑固だから絶対にうんとは言わない。
「だって無免許で花屋が出来るのかな?八百屋はじいちゃんがやっていたから、登録料のこととか全部じいちゃんがやってくれたけど、花屋はそんな簡単には出来ないんじゃないのかな?」
 調べてみる――そう言ってすでに一週間だ。
「そろそろ、結果がでたか?」
 ストレートに聞いてみた。
「うん。花屋を開くのに資格はいらないんだって。八百屋と同じで、市場の会員にならなければいけないんだけど、それだけでいいんだ。だけどね、花束とか作るのにやっぱりセンスがいるじゃないか、だからじいちゃんが通っていたフラワーアレンジメントのスクールに通おうかと思っているんだ。それが終わったら、ブライダルとガーデニング。道は険しいみたいだ。」
 そう言いながらも、楽しそうだ。
「そんなに花が好きか?」
 うん―頷いて照れる姿がとてつもなくいとおしくて、思わず抱きしめていた。
「あっちゃんは、何かやりたいことないの?」
「謙一郎の笑顔が見たい。」
「なんだかスケベ爺みたいなセリフだ。」
 そう言いながらも、クスクス笑っている。
「じいちゃんと一緒にスクールに通う。いずれ信之助さん並に庭の手入れも出来るよう、頑張るんだ。」
 君なら、きっと実現するのだろう。なんと言っても『将来を嘱望されたアーティスト』だったのだから。
 ご両親亡き後、大学で専攻していたのが美術だったなんて知らなかった。親の夢だったのが謙一郎を芸術家にすることだったらしい。その希望通り謙一郎は大学で絵を学んでいた。それ以前から個人レッスンを受けてはいたらしいが、本人が話してくれないので詳細不明だ。
 それが突然、絵で生きてはいけないと宣言して就職活動を始めたそうだ。
 まぁ、謙一郎のその選択がなかったら今頃僕は何をしていただろう?
 君に会えて、良かった。
「あっちゃん?」
 謙一郎の身体を抱きしめたまま、一人でニヤニヤしていたので不審に思ったらしい。
「僕は、料理でも習おうかな。二人が忙しくなったら、台所に立つ回数が増えるだろうからね。」
「うん。楽しみだな。」
 ニコニコニコニコ、本当に嬉しそうに笑う。
 君はそうやってドンドン新しい夢を見つけていく。なんだか僕は取り残されているような気がする。
 謙一郎の新しい夢。叶ったら僕は何を手伝えるか、考えてみよう。