雅之&克巳シリーズ
=必要なこと=(書き下ろし)

 雅之の背中が好きだ。
 さらさらですべすべで触り心地が凄くいい。
 初めて肌を合わせた日も、あれから何年も経った今日も変わらず可愛く俺を求め、身体を開き、喘ぐ。
 俺はどうしようもなく翻弄される。
 雅之の背に腕を回す。つるつるの背中が更に俺を誘う。ただ俺が雅之に惚れている、その事実だけ。
「雅之。」
 名を呼んだだけでも胸が狂おしく切ない。
「克巳。」
 その声に、快楽を覚える。
 誰にも触れさせたくない、箱に仕舞って鍵をかけて、二人っきりの時だけを過ごせたらどんなにいいだろう。
 唇を何度重ねただろう?
 その度に全身に甘い痺れがくる。
 弾力のある、ちょっとカサつく唇、俺以外何人が知っているのだろう?
 そっと舌で舐めてみると本当に甘いのだ。
 毎晩欲しいのに、言い出せない。
 雅之に好かれたままでいたい。
 そのために何が必要か?
 まず周囲の説得。今まで通りでは既に無理が生じている。
 俺の親は既に俺のことを諦めている。
 実は雅之には内緒だが、家を出るときに両親にカミングアウトした。
 母親は狂った様に泣き叫び、父親は思いっきり俺を殴った。
 それでも引き下がれなかった。
 物心ついた時から好きな人がいた。
 その対象が女の子だったこともある。
 だけど女の子は強い、俺の腕なんか必要としていなかった。
 でも雅之はこんな俺の腕に縋ってくれた。
 俺が雅之の人生を変えてしまったこと、雅之が俺の人生を変えてくれたこと。
 なにより俺に雅之が必要なこと。
 父親が俺を殴った拳を広げ、俺を抱きしめた。
 母親が涙を流した瞳を微笑みに変え、溜息をついた。
 雅之の母親にも土下座して謝った。
 俺が雅之から全てを奪ってしまった。
 母親も、他界した父親も、兄弟さえももう今までのように接してはくれないのだろう。
 表面上は変わらなくても、同性愛者というレッテルを貼りつけて接してくる。
 だから次に必要なのは自分自身の人間としての深み。まだまだ浅すぎる。
 雅之の全てを引き受けたからにはまだ駄目なんだ。

 時々、後悔する。
 雅之の人生を僕が奪って良いのかと。
 まだ間に合うのではないかと。
 それでも笑顔を見せてくれるから、頑張れる。
 欲しても、欲しても尚得られない愛があるのに、俺は何が不満なんだ…。


「克巳、いい加減寝ろよ。」
 腕の中で寝息を立てていた雅之が言う、気付いていたのか。
「雅之…」
「愛してる。幸せだよ。」
 雅之は俺の不安をたった一言で払拭してくれる。
 そうだ、そうなんだ。
 こんなに愛しているのに、俺達は男同士だから、いつか離れなければいけないと思いこんでいた、手放さなければいけないのだと。
 放さない。どんなことがあっても雅之を放さない。

 一番必要なこと。
 それは俺が雅之にとって愛しいと想い続けてもらえる、男になること。