「…」
「…!?」
「…何、入れた?」
黙って見ているつもりだった。珍しく克巳が台所に立っていたから。
しかしかぼちゃのスープ(だと思う)に砂糖を入れていたのだ。
「何って?塩だよ。…あ…」
自分の手に握っていたのが砂糖のケースだと気付く。
「赤が砂糖で青が塩。何度も説明しただろ?」
「う…」
「いいよ、かぼちゃは甘いから平気だよ。」
そういうことにしよう。
今年の仕事はほぼ一段落して、年末の三連休。僕等は部屋の中で過ごしていた。
1日目は大掃除、2日目は散歩しながら買い出し。そうしたら克巳が「今日は僕が夕食を作る。」と胸を張って言いきった。
「この間さ、雅之が忘年会で遅かった日だよ、テレビで料理番組をやっててさ…」
何故急に料理をする気になったかが解った。見ていたら意外と簡単そうだったから。
「料理は回数こなさなきゃ上手くならない。」
なんて言うが、僕だってそんなに上手くない。
克巳は優しい。
僕を待っててくれる、僕を包んでくれる、僕を甘やかしてくれる。
僕の欲しい物をなんでもくれる。
でもこんなんで良いのだろうか?
夏、僕は実家から…というか母親からほぼ絶縁状態を食らった。
兄は僕達のことを勘づいていたらしいが、母親は認めたくなかったらしい。
カミングアウトしたら蹴り出された。
でも克巳がそんな母親を懐柔したのだ。
どんな風に説得したのかは知らないけど、母親から電話が来た。
「克巳君はあんたには勿体無いわよ。」
と言われた。
克巳の両親は既に知っていた。初めて紹介されたとき、克巳の母親が僕を思いっきり抱きしめて「出来の悪い可愛くない子だけどよろしく」と言った。
でも不安がよぎる、本当に僕達は二人で幸せになって良いのだろうか?
夜、二人でクリスマスソングの流れる街へ出た。
「男二人でクリスマスデートってあんまり絵にならないな。」
と言いながらも満更でも無さそうな表情。
僕は克巳にシャツを見立て、克巳は僕にセーターを見立ててくれた。
お互いがお互いの好みを知り、似合う物を分り合っている。
それがとても自然で、幸せだった。
『あなたが信じているものが全て正しい』
ふと、耳に飛び込んだ言葉。
周囲を見渡したが、宗教関係らしい人影は無い。
でも、確かにそうかも知れない。
僕が君を信じているから二人は肯定される。
少しづつ、変えていけば良いんだ、例え僕等がこの世から去った後でも。
「克巳、またかぼちゃのスープ作ってよ。」
天気予報か明日は雪だと告げた夜…。
メリークリスマス。
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