「もう、帰らない」
「うん」
「僕の家は君だから。迷わずに生きたい。」
雅之は無言で頷き、克巳を抱き寄せた。
「行くぞ」
「待って」
クローゼットからマフラーを二つ、取り出す。
「また、風邪引いたら面倒だからな。」
「どっちがっ」
言いながら素直に首にかける。
「あと、さん、に、いち…あけましておめでとう」
「おめでとう」
なんか、照れくさい。
「今年はマンションに引っ越したいな。」 「いいね、それ。」
去年、克巳は人事部へ、雅之は広報部へそれぞれ異動になったため、土日は基本的に休めるようになった。
でも残業は多い。平日は大抵冷凍してある白飯をレンジでチンしてお茶漬けかレトルトカレーを乗せた晩飯。だから土日は反動で二人とも思う存分腕を奮う。 「寝るだけの部屋からは脱出したいね。」 「同感」
周囲に人がいないのを確認して克巳は歩きながら雅之にキスをした。 「あのさ、そういうことは部屋でしない?」
「やだ、我慢できない」
雅之は克巳の頭を抱きしめた。
「大人なんだから我慢しなさい」
克巳がクスクスと腕の中で笑う。
「好きだよ」
小さな声で、克巳が囁く。
「うん」
あれから、いくつの季節が通り過ぎたのだろう。二人っきりで迎えた、初めての正月。
「なんか、寒くない?」
そう言って雅之は克巳に身体を寄せる。そんなところも変っていない。
「お雑煮は醤油でいいんだよな?」
「違うって、味噌だよ、白味噌。」
「なんだよ、そういうことはもっと早く言えよ、買ってないよ。」
少しだけ唇を尖らせるが、直ぐに納得したように、
「克巳の田舎の雑煮でいいよ。」
と、折れる。
はらり
雅之と克巳の上に、雪が舞い降りた。
でも直ぐに止んでしまったので、誰も気付かなかった。
|