雅之&克巳シリーズ
wedge

「うー」
 雅之が唸る。
「ふー…」
 克巳が溜め息をつく。
 そして同時に「だまされた」と呟く。
 週末を利用して今年、最初で最後のスキーに来た。
 うれない俳優の気象予報士が雲を見ながら予想した天気は雪。それを信じて二人で車を走らせてやってきたのに、斜面には土が見えていた。
「今年は暖冬だから早々と営業を打ち切ったんだよ」
 地元の人が僕らを見かけて申し訳なさそうに説明してくれた。
 上の方に行けばあるんじゃないかな?と言う言葉に幾分励まれてテクテク歩いてきた結果が、斑に雪が点在する山肌だった。
「どうする?」
「とりあえず車に戻ってパソコンを開いてみよう」
「でも来る途中何度も確認したじゃないか。」
 雅之は幾分諦めた口調だ。
「確認して大丈夫だと踏んだんだろ?ならどこかにあるはずだ」
 克巳の言うことは尤もだ。


 車を30分程走らせただけで、一面の雪原に辿り着いた。暖冬でも標高が高くなると下とはかなり違う…は板を貸してくれたおじさんの話。
「良かったなぁ。」
 雅之が無邪気にはしゃぐ。なのに克巳はなんとなく元気がない。
「体調悪いのか?」
 雅之は運転を替わるつもりで声を掛けた。
「結婚、しないか?」
「左から?右から?」
「何が?」
 克巳は雅之のワケが分からない質問に自分の告白をはぐらかされたのだと思った。
「何がって、自分で聞いたんじゃないか!」
 …何を聞き間違えたのだろう?折角の告白だったのに…。
「結婚しないかって言った」
「結婚?誰と?」
「オレと…考えてくれ」
「無理…だろ?」
 克巳の至福の時は消えた。
「僕はイヤだからな!ウェディングドレスも文金高島田も!」
 クックックッ…
 克巳は喉の奥で笑った。本当は声に出して大笑いしたかったけど雅之が怒るから我慢した。
「結婚式じゃない、結婚だよ」
 小さく首を傾げた。
「籍を入れるんじゃなくて式じゃなかったらどんな結婚するんだよ…まさか、僕に会社を辞めて家に入ってくれとか言うんじゃないよな?」
 短絡的な思考の雅之も好きだ…克巳は思う。
「別に、何も変わらない。ただ、『君』と呼んでみたい、そう思った。」
 雅之に太い楔を打ち付けて支配したい…そう言いたかったけど止めた。
「呼べばいいじゃないか。僕達のことは周知の事実だし、親公認だし…指輪でも買うか?」
「そうだな…」
 的を得た答えだと克巳は思った。何か、印が欲しかったのかもしれない、所有の証を。
「ところで、何が『右から、左から』なんだ?」
「え?」
 雅之が赤面する。
「…言わない…」
 夜、絶対に白状させる…心に誓った克巳だった。