就職試験の日、隣に座ったヤツなんだけどさ、何かスカしたヤツだなーって思った。
人が試験問題と悪戦苦闘しているのにサラサラサラサラペンを滑らせる音を起てるんだ。
面接でも定番の答えなのにヤツが言うとやたらと新鮮に聞こえた。
そんなヤツと再会したのは、会社の組織変更で互いに地方から東京の営業に異動してきた時だ。
「何ニヤニヤしてるんだ?」
克巳が不思議そうに見ていた。
「お前と再会した日のこと。」
「忘れてくれ」
「い・や・だっ」
忘れるか、大事なこと。
「人のこと『あ、ナス』って言った。」
「悪かったよ。こんなに可愛いヤツだと思わなかったんだよ。」
え?
相変わらず、嬉しいことをさらりと言ってくれる。
でもな、ぼけナスのナスだなんてな!悲しかったよ。
「雅之にさ、手紙を渡してくれっていう女子社員がいたんだ。社会人になってからだぞ?笑うだろ?…捨ててやった。」
「誰だよ、それ?」
「もう辞めた。再就職先で相手見つけて結婚したんだってさ。」
なんだ、ちゃんと確認したんだ…ん?
「嫉妬?」
「ばーか」
克巳は僕にだけ饒舌だ。
お前だって女の子にはもてていたんだからな。教えてやらないけど。
何人も「恋人がいるか聞いて」と言ってきたから「僕」だと教えてやった。…誰も信じなかったけどさ。
朝まで飲んだくれて僕のアパートで雑魚寝した。
一週間のうちに何度そんな日があっただろう?
「無口なくせに営業は得意なんだよなぁ。」
「でも雅之には勝てなかった。」
そんなことないぞ。
こんな風に毎日過ごして毎年年を重ねて死んでいくんだろう。
でも君が居てくれるなら大丈夫、頑張れる。
今年の冬は突然寒くなってスキー場は雪が多いらしい。
又、二人で出掛けような。
終わり
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