|  東京に今年最初の雪が降った、1月12日。
 
 夏の終わりのことだった。
 雅之が実家に帰ると言い出した。
 「兄さんが事故に遭って、仕事が続けられなくなった。」
 雅之の家が農家なのは知っていた。でも次男だからと安心していた。
 
 
 ちらちらと雪は降り続く。
 僕は天を仰いだ。
 
 「克巳、来年になったら戻ってくる。
 その頃には兄さんも良くなっているだろうから。」
 
 
 ・・・雅之、来年って・・・何時だ?
 ふわふわ、ふわふわ・・・雪が踊る。
 
 「約束だぞ、来シーズン、またスキーに連れて行ってくれるって。」
 「あぁ、だから早く帰って来い。」
 「うん」
 
 
 もう、どんな形をしていたか、分らなくなった。
 寒い夜、僕を暖めてくれた、君の、皮膚。
 
 
 「浮気しないで、待っててくれるか?」
 「当たり前だ、馬鹿。」
 そう言ったら雅之が笑った。
 
 駅で、君と同じ色のコートを着た人とすれ違うだけでドキドキしてしまう。
 帰ってきた・・・って。
 でも違うことに気付いてあからさまに肩を落としてしまう。
 お蔭で、すっかり会社の人間にばれてしまったよ。
 帰ってきたらびっくりするぞ。
 
 
 「シーツはいつも綺麗にしておけよ」
 
 「わかってる」
 「克巳」
 「わかってる」
 「なにを?」
 「愛してる・・・」
 「・・・うん」
 
 「もう、待てないよ、雅之・・・」
 決めた。迎えに行く。
 会社帰りのそのままで、僕は電車に飛び乗った。
 二人の部屋に明かりが灯っていることも知らずに・・・。
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