雅之&克巳シリーズ
=雪=『晴れ時々雪のち雨』
「克巳?なにしているんだよ。」


 
5ヶ月ぶりに僕等の部屋に戻ったら、
 まだ克巳は帰って来ていなかった。
 実家から戻ってくる時に部長には電話を入れておいたけれど、克巳には言わなかった。
 だって、突然の方が嬉しいだろう?
 なのに、いくら待っても克巳は帰ってこない…。
 22時を少し回った時だった、突如電話が鳴り響いた。
「もしもし?」
 実家の兄からだった。
「え?」
 克巳が来ていると言う。
「ちょっとかわって。」
 怒鳴る様に催促する。
「馬鹿・・・なんで待っていないんだよ・・・」
 僕はひとりごちた。



『直に帰るから。』
 ガンッ
と、受話器を置く音。
 実家の電話は今でも黒電話、だから受話器を置いた時に
チンッ・・・
と音がする。
 それが直接耳に入った。
「いってーなぁ・・・」
 耳の奥がチンチンいっている。
 でもそれよりも胸のほうが数倍もチンチン鳴っていた。


実家じゃあ、再会の歓びは噛締められないことくらい分かっているよなぁ、克巳?
 それでも迎えに行ってくれたんだ、サンキュッ。
 絶対にここに帰ってくるって決めていた。
 だけど兄の怪我の具合がなかなか良くならず、今は畑もハウス栽培をするので1年中忙しいのだ。
 連絡も出来ずにイライライライラしていた。
 東京からそんなに離れていない場所なのに、とっても遠くに感じた。
 逢いたい、逢いたい、逢いたい…
 夜中に何度も君を想って空を見上げた。
 12月の下旬、今冬初めての雪が降って逢いたさが募った。
 僕を抱き締める腕の力強さを想い、顔を埋めた胸の厚さを想った。
 年が明けたら帰ろう、兄にそう言おう。
 それが1日延び、2日延び・・・。
『雅之、そろそろ復職しないとクビになるぞ。今のご時世リストラがあるからな、簡単だぞ。』
 兄が僕の心中を察してくれた様に昨日の夜言ってくれた。
『俺ならもう、大丈夫だ。今までありがとう。』
『うん』
 帰れる、克巳の元に…。

 朝、起きたら雪が降っていた。
 君と何かある時はいつも雪が降っているね。
 天気予報でも午後から東京地方も雪だって言っている。
 早く帰ろう、君の好きなクリームシチューを作って待っていよう、
 そう思っただけで涙が止まらなくなってしまった。
 駄目だね、君の前だと泣き虫になってしまう癖を直さなきゃ。

 僕は窓の外をずっと見て待っていた。
 深夜2時、建物の前にタクシーが停まった。
 既に雪は止んで雨に変わっていた。
 視界がぼやけて何も見えなくなった…。