5ヶ月ぶりに復職した。
得意先に挨拶に行ったり、上司のサポートをさせられたりと最初の頃はバタバタとしていたけど、やっと落ちついてきた。
しばらくの間、克巳の方が先に帰る事が多かったけど今夜は一緒に帰宅。
「なんか、寒くないか?」
そう言って身体を摺り寄せるのも久しぶりだ。
「やっと戻ってきた…って感じだな」
「うん」
昨年の夏、僕達は新しい部屋を借りたのに、1ヶ月経つか経たないかのうちに僕がいなくなった。
「寂しかったか?」
「ん…最初はね。でも、慣れた。ずっと一人だったからもとに戻っただけだって言い聞かせた。」
「なんだよ、克巳今まで実家で生活していたのにどうして一人なんだよ。」
「…恋人がいなかったってことだよ。」
「いなかったのか?」
「お前、知らなかったのか?」
「知らなかった…」
横断歩道で信号待ちをしている間、あっという間に唇を重ねられた。
「ばか…」
僕は呟くのがやっとだった。
今夜は本当に冷える…。
スーパーで買ったレトルトパックに入っている"おでん"を鍋にあけて温める。
ご飯は朝炊飯器にかけて…電気が入ってないっ。
「克巳っ、炊飯器っ」
「ん?」
「電気入ってないぞ」
「…ごめん、米も入ってない。今朝忘れた。」
…帰りにコンビニに寄ってご飯を買ったのはそういうわけか…非常食かと思った。「駄目だよ、お前一人の時弁当ばっかりだっただろう?不経済だぞ。」
「ごめんごめん。」
そう言いながら右手に缶ビールを持って僕の腰を背後から抱きしめる。
「堅い事、言うな…」
「腹減った」
「ロマンが無いっ」
克巳の場合、ロマンじゃないだろう?
その時、僕の視界に動く物が、映った。
「なんだ?」
「何?」
「ん、今…」
あっ。 僕は窓に張りついた。
「雪」
「降っちゃったな。」
「積もるかな?」
「無理だろう?」
「…1年、だね。」
「うん…」
見詰め合い、微笑む。
風が強いのだろうか、雪が舞いあがる。
「綺麗だね。」
「そうだね。」
綺麗だと思える物を一緒に見られる事の幸せ、綺麗だと思える物が一緒だということの幸せ、綺麗だと思える気持ちを持てるようになった事の幸せ。
「寒いから、カーテン閉めるぞ。」
「待って、もう少し…」
「月末の土日予約入れておいた。」
「何を?」
「宿、約束だったから。」
そっか、スキーだね、克巳。
「雅之、飯食おう。」
「うん」
こうして僕達は平凡な日々を過ごして行く。
時々小さな感動を胸に抱きながら、生きて行く。
二人だったら2倍の感動を抱ける。
克巳、長い間ひとりぼっちにして、ごめん。
もう何処にも行かない。
朝目覚めてヌクヌクとしたベッドの中、克巳がいる事の幸せ。
君はずっと耐えていたんだね、ごめん。
食後、コンビニにソフトクリームを買いに行くと言って利かない克巳は、実は僕よりもずっと、雪を喜んでいたのだった。
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