飛鳥の都【過去編】
【一】
 何も考えられない、何も考えたくない。
 豊香(ゆたか)は、現実に起こっていることを受け入れてしまうことが、最善の策であることだけを、悟った。

 昨夜、豊香と晋太郎(しんたろう)は、実家が寺で自身も仏教系の大学に通う大仁(ひろと)の家に泊まりに来ていた。
 豊香と晋太郎は現在高校三年で受験生、大仁は一つ年上だけれど幼馴染みの三人は仲が良かった。
 推薦入学が決まっている二人は、大学生の心構えのようなものを聞きに行くと言う名目で、遊びに来ていたのだ。
 深夜、布団の中でこそこそと話し込んでいたとき、それは訪れた。
 廊下をドタバタと大勢の足音が三人の寝ている部屋に近付き、アッという間もなく、豊香はその人間に拉致されてしまったのだった。
 何か薬のようなものを嗅がされたらしく、気が付いたら夜が明けていた。
「お目覚めです。」
 時代錯誤な服を着た晋太郎が言った。
 すると、複数人の男達が豊香の周りに集まった。
「な…」
 その時、豊香は気付いた。
 自身は一糸纏わぬ姿で手足を拘束されていることに。
 両脚をいっぱいに開き、上半身は新幹線のシートを少し倒した状態。完全に無防備だ。
「しんたろ、これは、なに?って、何をするんだ!」
「あなたは、選ばれし御子」
 選ばれし御子…豊香は昔、子供の頃に聞いた記憶があった。
 しかし、その答えに辿り着く前に、完全に思考停止状態に陥った。
 身体の上を男達の舌が這いずり回る。乳首を舐められたり吸われたり?まれたり、左右の脇腹も、最初は優しく指で撫でられていたが、ねっとりと舌を這わされ、臍の中にも舌先を捩じり込まれ、くすぐったさから身体を捩る。手足の指一本一本を口腔内で嬲られ、一時間もすると空気が触れただけでも身震いするほど身体中が性感帯と化していた。
 なのに、彼等は一番敏感な箇所には一切触れてこなかったので、身体の奥深くがずっと燻っている。中央で熱を帯び、真っ赤に熟し、自己主張をしている部分は、微風にでさえ感じて口をパクパクしながら透明な蜜をじわりと浮かべる。

「豊香っ!」
 扉を開け室内に入ってきた男が名を呼んだ。
 身体を動かすと、色んな箇所が感じてしまうので、一切身動ぎせずにいた。
「声も、出せないのか?」
 足音が背後で止まる。
「ひろ…と」
 切れ切れに名を呼ぶ。
「俺達、ちゃんと見てるから。豊香にだけ、全部押し付けないから!」
 力なく首を左右に振る。
 この後、何があるのかを察したのだ。
「この村で生まれ育ったのだから、この儀式が大切なことは分かって、いる。」
 口にしたけれど、怖いものは怖い。
 大仁の実家は全国にその名を知られている寺の近くにあり、その寺の分院らしい。むかし、その寺で修行した人が一国の主として持たせて貰ったもの、と大仁が言っていた。
 豊香はごく普通の家庭に生まれ育った。父は大学で仏教を専攻する教授で、母は寺の売店で働いている。
 小学校の時に、ちらっと儀式については教わった。
「あうっ」
 思考を停止させられる。
「大仁っ、やめ」
 勃起しきった先端に、棒状のものを差し込まれていた。
 先端からはダラダラと透明な汁が溢れ出る。
痛いのに、気持ちいい。
「俺もさっきやり方を教わったばかりだから動かないでよ?中、傷ついちゃうから。」
 ぐちゅぐちゅと音を立てて、尿道をゆっくりと侵入してくる。
「やぁ、やめてぇ」
「ダメだよ、豊香が雄イキしちゃうだろ?ドライオーガズムじゃないと困るんだ。それとも根元をリングで留めた方がいい?」
 大仁は淡淡と手を動かす。
「イヤだぁ」
 目尻から涙が零れ落ちる。
「豊香、君は選ばれた人間なんだ。この村に生まれて、この伝説を知らない人間なんていない。その伝説に関わることが出来る人間がいたなんて、知らなかった。光栄だよ。」
「だ…て、こん…な、屈辱…あぅっ」
「まぁ、ね、確かに屈辱的だろうね、豊香は。でも、儀式が終わったら、豊香は唯一の存在になれる…」
 ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅと進んでゆく淫具は、やがて最奥に到達した途端、
「ひぁぁぁぁぁっ」
 豊香は悲鳴をあげた。
「一番感じる場所に到達した。」
 大仁が淡淡と告げる。
 豊香は脚の付け根が跳ね、両脚をばたつかせる。背を仰け反らせて喉が上向く。
「あっ、ああっ」
 取って欲しいという言葉も浮かばないくらい、快感が背を伝う。
 大仁が部屋を出たことすら、気付かずに喘いでいた。

「豊香、儀式が始まる。」
 啜り泣きながら悶えている豊香の耳元に大仁が囁く。
 「終わったらゆっくり風呂に入って寝られるから、もう少し頑張れ。」
「終わったら」の言葉に安堵し、頭の中には「もう少し」がリフレインしている。
 僧侶が仰々しい袈裟を着て入ってきた。
 手には巨大な張り型を持っていたのだが、喘いでいる豊香の目には映らなかった。
 十数名の僧侶が従い、豊香の周りを囲み、最初に入ってきた僧侶が何か言っていたが、豊香の頭には入ってこなかった。
 ただひたすら「もう少し、もう少し」と、唱えていた。
と、突然後孔に何かが触れた。
「ひゃっ」
 新しい刺激に悲鳴を上げる。
 ヌメヌメと蠢くものが、後孔の襞を擽る。
 それが僧侶の指であると気付いたのは、敏感にさせられた全身を、さわさわと鳥の羽根のような物で撫でられ、悲鳴をあげたときに開いた瞼により瞳に映し出されたからだ。
「おね…がい、もう、ゆる…して」
 その間に後孔は徐々に奥へ奥へと侵入を許していた。
 ビクッと、身体全体が跳ね上がる。後孔の侵入が前立腺に当たったのだ。
「うわぁぁぁぁっ」
 電流が走り抜けたような快感が走った。
「もう、大丈夫です。」と言う言葉が耳に届いた。
 やっと終わる、と思った瞬間、後孔を大きく割り広げられた。
「痛いっ、止めろ、痛いぃぃぃっ、無理、何すんだ!?」
 豊香は自分の発する言葉は通じていないのではないかと思えた。誰からも返答が無いからだ。
 ずくずくと肉壁を擦りながら、身体の中に埋め込まれているのは、僧侶の持つ巨大な張り型だ。
 経を唱えながら、僧侶は豊香を犯してゆく。
 ゆっくりと入れては、少し戻し、また進めては少し戻すを繰り返し、全てが体内に収まった。
 豊香は、息をすることも出来ないくらいに、身体中の性感帯がむき出しになり全てに対して敏感に感じていた。
 一人の僧侶が尿道に突き刺さる淫具を掌で押さえ、水平にグルグルと回転させ、他の一人の僧侶は張り型を抜き差しする。
 当然、何れも豊香の身体の奥深くに刺さっているので、中が抉られ悲鳴をあげた。
 さらに別の僧侶がもう一つ、巨大な張り型を取り出し、口の中に突っ込むと、喉の奥まで突き入れたり引き出したりを繰り返す。
「ん、んんっ、んーーーーーっ」
 豊香を読経が包み、ぐちぐちと水音が響く、何とも淫靡な世界が繰り広げられていた。
「んーーーーっ」
 豊香は喉奥から喘ぎ音が迸る。
 もう、自分は人で無くなったのだと豊香は頭で思った。
 身体は海老のように反り、ガクガクと震える。
 喉の奥に大きく張ったカリが当たるから、息も出来ない。
 このまま、ここで殺されるのだと、手放しそうな意識の下、覚悟を決めた、その時、雷が脳天から爪先を抜けたかのような衝撃が全身を覆い、意識を引き戻された。
「んっ、んっ、んんっ」
 手足が痙攣を起こした。
 頭の芯がぼうとして、真っ白になった。
 僧侶達の動きが止まった。
 しかし、痙攣は止まらない。
 止まっていた思考が少しずつ回復していく。それに伴い痙攣も治まりつつある。
 口腔を犯していた張り型が抜かれ、儀式が終わった。

「んっ、イヤっ、ダメぇ」
 ゆっくり眠れると、大仁が言ったのに、何故か一睡もさせてもらえずに、言った張本人に延々と抱かれていた。
 儀式が終わり、張り型は抜かれたが、尿道の淫具は突き刺さったままであった。
 拘束が解かれそのまま隣の部屋の布団に運ばれた。
 布団の上でも、肉塊に突き刺さった淫具で中をグリグリと掻き回され、その度に豊香の喉から悲鳴が漏れる。
「も、それ、やめてぇ」
「でも、気持ちいいでしょ?」
 大仁が囁く。
 否定の言葉を吐くつもりが、首を縦に何度も振っていた。
 事実、お腹の中の最奥で、虫が蠢いているような感じがして、それが気持ち良かった。
「豊香、俺を伽に選んだこと、覚えてる?」
「う、うん」
 不本意だが、そう言っていた。
「なら、前言撤回、今夜は眠らせない、覚悟して。」
 大仁はどうして豊香を抱くのか、どうして伽が必要なのか、理解しないままに選ばされ、鳴かされている。
 吐精口に突き刺さる淫具を、ゆっくりと引き抜かれるその行為自体が快楽へ導く。
「ああんっ」
「そんな、切なげに喘がないで、また豊香が欲しくなる。」
 淫具を抜いたと同時にストローのように真ん中に穴が開いている別の栓を嵌められた。排尿は出来る器具だが、吐精は出来ない。
 巨大な張り型を飲み込んでいた後孔は、ぽっかりと口を開けて、そこに、大きく反り返った大仁のペニスが、凶器のようにズブズブと挿入される。
「あんっ」
 残念ながら、豊香に女性とのセックス経験はなかった。だから、初めてのセックスが男性ということになる。
 それも、幼なじみ。
「豊香、すげー甘ったるい声が出るんだな。」
 大仁は顔を真っ赤に上気させて、豊香の顔を見詰めていた。
「俺達、いま一つになってるんだぜ。」
 そういうと、唇を求めてきた。
 何故か抵抗もせずに受け入れた。
 くちゅくちゅと、舌が口腔内を嘗め回す。舌を絡めて、唾液を啜り合う。
 その行為で、ペニスの先端に熱い物が流れ込んでいく。唇が離れると、糸を引いていた。
「豊香の口んなか、甘い。」
 そう言って舌舐めずりすると、再び唇を重ねてきた。
 舌を吸われ、延々と絡め合う。
「んっ、んっ、んっ」
 息が出来ない。それでも唇を離せなかった。
「ずっと、豊香にキスしたかった。こうして一つになりたかった。」
 大仁の口から、意外な言葉を聞いた。
「なん…で」
 言って慌てる。
「ん、ちが…」
 言い終わる前に、再び唇を塞がれた。
 儀式が終わったとき、僧侶から「今宵は伽とおやすみください。」と言われ、別の僧侶を宛がわれた。きっと、僧侶だったら伽と言っても性交はしなかっただろう。
 なぜ大仁を選んだのかが豊香は分からなかった。これは、自分の言葉じゃない、何かの力が働いて言わされていると思う。
 しかし、どんな力が働いているのかなんて、今の豊香にはわからず、ひたすら快感に身を委ねていた。
「嬉しい、豊香」
 大仁は大きく腰を引き、ペニスが抜ける寸前まで後退すると、勢いを付けて突き入れてきた。これを何度も何度も繰り返して、亀頭で肉壁をグリグリと擦った。
 豊香は擦られるのが気持ち良かった。でも、前立腺に亀頭が当たるのが一番気持ちいい。あへあへと、だらしのない声を上げて善がる。
 大仁は大量の精を豊香の体内に放った。飽くことなく何度も放った。

2020.07.04
【二】
 目覚めたとき、大仁は居なかった。
 既に身体は清められ、真新しい浴衣を着て和室の布団に寝かされていた。
 ただし、蜜口は塞がれたままだった。もう丸一日射精もさせて貰えていない。
 常に勃起し、亀頭が腫れていた。
「御子、ご存知だと思いますが、儀式は三日三晩、続きます。もう少しおやすみください。」
 みこ?ああ、御子か…豊香はボンヤリと考えていた。
「今夜の儀式を司るのは、分院の僧侶となります。」
 今夜もあの張り型を突っ込まれるのか…と、溜息をついた。
「夜まではゆっくりとお休みください。」
 朝食なのか昼食なのか判断できないけど、お粥が手渡された。
「明日の儀式が終われば宴が催されます。それまでは粗食となりますがご承知おきください。」
 空腹は満たさないが命を繋ぐ程度に食わせるらしい。
「直腸を使用するので、排泄を極力減らすためです。」
 人権を無視した行事なのだなと、豊香は思ったがさっさと食って寝るのが一番だと判断した。

「御子、お目覚めください。」
 豊香は身体を揺すられ目覚めさせられた。
「ん…眩しい。」
 布団を捲られた。
「間もなく儀式が始まります、着替えを」
 儀式の言葉に豊香は身を固くした。

「はぁ」
 居並ぶ男達が一斉に溜息を付く。
「なんて、お奇麗なんでしょう。御子、噂通りの選ばれし者…」
 豊香にはお世辞にしか聞こえない、いままでそんなことを言われたことがないからだ。
 ただ、小さい村の中で友人は多かった。
 小学校、中学校、高校とそこにいる人間全てと挨拶を交わす程度には知り合いだ。
 嫌われて虐められたなどと言うことはない。
 不思議なのはそれだけ知り合いが多いのに、昨夜の儀式では大仁と晋太郎以外、知った顔がなかったことだ。
「御子、お迎えに…!!」
 廊下からドタドタと男が入ってきた。
 顔を上げ、そちらを見遣る。
「あ、晋太郎」
 豊香がいつもの笑顔で晋太郎を迎えた。
「ゆた…か?」
 見た目に分かるほど、晋太郎の瞳が大きく見開かれ、顔を赤らめた。
「そんな、見んなよ。恥ずかしいじゃないか。」
「奇麗だよ、豊香。」
「なんだよ、気持ち悪いな、晋太郎からそんなことを言われるなんて。」
 豊香の頬が朱に染まる。
「でも、本当に奇麗だ。豊香の裸なんて見慣れているはずなのに、こんなに胸が高鳴るほど、目が離せなくなるほど麗しい人だったなんて気付かなかった。彫刻のような胸板に二の腕の筋肉、無駄のない腹筋、長い手足…形の整ったペニス、」
「分かった、分かったからもういいっ」
 父親が今時の男は腹筋が割れていないとモテないと言われ、三人でずっとプールには通っていた。
 それより、ペニスの形を褒められても嬉しくない。
 自分が変わったとしたら、身体の隅から隅まで性感帯に変えられたことだと、豊香は思う。
 浴衣は羞恥のために纏ったが、本当は腕を通した時点で感じていた。
 今は、何も纏っていない羞恥で、肌がピンク色に染まっている。
 周囲が言っているのはそのことかと、?気に豊香は構えていた。
「今朝、大仁が戻ってきて、豊香の破瓜を担ってきたと興奮していた。」
 晋太郎の目元が朱に染まり、潤んでいた。
「正直、羨ましかった。」
 豊香はその言葉に、衝撃を受けた。
 そして、自分が儀式後に口走る言葉を、察した。
 多分、今夜は晋太郎に抱かれるのだろう。
 「御子」に選ばれたと言うことは、ここに何かヒントがありそうだ。
 もしかしたら、大仁と晋太郎は、「御子」の伽として存在しているのかもしれない、これからも豊香は二人に抱かれ続けなくてはならないのかもしれない。
 ちゃんと伝説の皇子について勉強しておけば良かった。一体自分はどうなるのだろう?と、豊香は不安に駆られた。
「晋太郎、晋太郎は、」
「御子、お急ぎください」
 晋太郎と話をする時間も与えてもらえないようだ。
 腰に紐で結ぶタイプの小さな下着を付け、薄様の羽織り物を着、帯ではなく細い紐で前を閉じた。
 晋太郎に傅かれて今日の儀式会場へ向かう途中、周囲の景色に異変を感じた。
 いつも見慣れた景色ではない。
 よく見れば居並ぶ人々の着衣も古典的だ。
 考えがまとまらない内に大仁の家、分院の本堂に辿り着いた。
 初めて足を踏み入れたが、外観が違う。
 なぜ、大仁と晋太郎は不思議に思わないのか?
 中央に今時のラブホテルでもこんなえげつないベッドはないだろうというほどの、原色の糸で刺繍を施されたカバーに、ベッドヘッドは曼荼羅のような色使い。
 分厚い敷き布団には、真っ白なシーツが敷かれていた。
「御子、こちらへ。」
 晋太郎が豊香の手を引き、ベッドへ諫なった。
 大人しく仰向けに寝る。
 周囲には昨夜同様、十数名の僧侶と、大仁も袈裟を着て座っていた。
 僧侶が全員で経を唱える。
 晋太郎が近付いてきて、腰の紐を解いた。
 これからまた、延々と犯されるんだ。もうこれは強姦ではないか?
 法的に問題はないのか?豊香はそんなことを考えたが、昔からの言い伝えで習わしだと言われれば、この土地に生まれた人間としては、黙って従ってしまう。
 でも、怖い。
 昨日だってあられもなく乱れた。
 今日も衆人環視の中、乱されるのだろう。
「んっ」
 晋太郎が下着の紐を外し、前を寛げた。
 勢いよく屹立したペニスが飛び出す。
 昨日のまま、排尿が出来る器具を入れたままになっている。
「中を消毒します。」
 長い綿棒のような物を管から入れられた。
「はぁっ…んんっ」
 晋太郎の手付きは優しかった。
「ん、」
 中を掻き回されて理性を保つのが精一杯だ。
 晋太郎が手にした淫具は、棒の途中に小さな小さな真珠が二つ付いていた。
「それ、入れる…の?」
 晋太郎がニコリと笑った。
 器具が外された。
「んんっ」
 それだけで感じる。
「それでは、挿入します。」
 晋太郎は、周りにいる僧侶たちへ向かって言っているのだ。
「豊香、さっきの消毒の時、媚薬も一緒に塗った。」
「な!」
 その言葉で、先端から蜜が溢れた。
「イヤらしいなぁ」
 左手の親指の腹で、先端に円を描いて蜜を塗り込め、右手で淫具を入口に差し込んだ。
 豊香の身体がビクッと反応した。
「期待してる?」
 首を左右に振る。
 ぐちゅ
 淫具に付いた真珠を飲み込んだ。
「あうっ」
 息苦しさを感じた。
 ぐちゅぐちゅ
 二つ目の真珠を飲み込んだ。
「くっ」
 二つの真珠が奥へ進んで行く。尿道が押し広げられていく。
「ん…はぁっ」
 物凄く狭い領域を犯されているのに、身体全部が震えるほど気持ちいい…豊香は愉悦に震えた。
 とんっ
「ぐぅっ、」
 音にならない声が喉から漏れる。
「準備が整いました」
 晋太郎が離れていく。
 豊香は身体の向きをうつ伏せに変えられ、腰を高く持ち上げられる。当然両脚は開いたままだ。
「奇麗な色だ」
 僧侶が後孔に舌を差し込んだ。
「ダメぇっ、汚…いっ…ですぅ」
 ぴちゃぴちゃと湿った音が聞こえる。その行為は羞恥の方が大きい。
 両脚の間から、僧侶の動きが全て見えた。
 舌を使いながら右手で張り型を取った、昨日より大きい。
「ひっ」
 豊香は思わず小さく悲鳴をあげた。
 潤滑剤が塗ってあるらしく、テラテラと光っている。
 僧侶が名残惜しそうに舌をしまった。
「ぎゃーっ」
 ブスリと、躊躇いもなく張り型を孔に突っ込む。
 豊香はもう様子を見ていることも出来ない、シーツを両手で掴み、顔をシーツに埋め歯で噛みしめる。
 一気に奥まで突き入れ、直ぐに引き出す。兎に角猛スピードで抽挿を繰り返す。
「ぐっ、はっ、」
 豊香は全身を走り抜ける痛みに、シーツを噛みしめる歯に力が強まる。
 びちゅびちゅ
 ローションと体液の音が本堂に響き渡る。
 あちこちで息を?む音がする。
「うわぁっ」
 前に差し込まれた淫具を僧侶が刺激し始めたのだ。
 豊香の中で、悲鳴をあげていた肉壁が、歓喜に変わった。
「んんっ、はあん」
 噛みしめていたシーツから顔を上げ、自ら張り型が気持ちいい箇所に当たるよう腰を動かしていた。
「おおっー」
 周囲がざわめいた。
「まだ、二晩目なのに、なんという素質」
 そんな声が豊香の耳に届く。
 途端に羞恥で肌が朱に染まった。
 だが、張り型の先端が前立腺に当たるようになると、もう気持ち良すぎてそんな言葉も関係なく善がり狂った。
「あん、あん、」
 こんな声が自然と出るなんて思いも寄らなかった。
「いい、いいのぉ」
 豊香は言葉を発することで、羞恥を払拭すると共に快楽を深める。
「うあっー、もっと、もっと突いてぇ」
 腰を振り立てながらお強請りをした。
「んんっ、あっ、そこっ、そこが良い」
 亀頭がゴリゴリと前立腺に当たり続ける。
「あっ、あっ、あ…んっ」
 足の指がギュッと閉じる。シーツを握りしめる指に力がこもった。肩から背中からビクビクと痙攣している。息が出来ない。
 僧侶の抽挿が止まった。
「御子」
 豊香はやっと呼吸が出来るようになったが、まだ肺が酸素を求めているので、はぁはぁと息を継ぐのが忙しい。
 なのに荒い息の中で「晋太郎」と、はっきり名を告げていた。

「御子、失礼します。」
 息も絶え絶えの豊香を、着てきた薄様に包み、お姫様抱っこで連れ出す。
「豊香、ありがとう。嬉しいよ。」
 当然、お姫様抱っこしているのは晋太郎だ。
「晋太郎、儀式は『皇子』の蘇りなんだろ?蘇ったら僕はどこへ行くんだろう?」
 豊香は晋太郎にギュッとしがみ付いた。
「怖い。」
「豊香、」
 言うと晋太郎は深く口付けた。
「お前、本当に何も勉強してこなかったんだな。」
「え?」
「蘇っても豊香は豊香だよ。何も変わらない。豊香は、ここにいる。」
 良かったと、豊香は安堵する。
「晋太郎、早く、して。」
 安心したら、急に淫靡な気持ちが溢れ出たのだ。

「あぁっ、んっ、やん」
 晋太郎は豊香を執拗に淫具で攻め立てる。
「これでイクと、腰が抜けそうになるんだって。だから、いかせてやるよ。」
「いやっ、しんた…ろのが、ほし…い」
「この同じ口で夕べは大仁に強請ったのか?」
「ううん、昨日は大仁にされるまま…」
 晋太郎は言い終わる前に口腔を犯し始めた。
「ん、ん」
 豊香は口の中が気持ちいいなんて知らなかった。それもそのはず、キスをしたことも無かったのだ。
 晋太郎による淫具での攻めは終わらない。
「んんっ、んんっ、んーっ」
 吐精感が一気に襲ってきた。
 目尻から涙が零れた。
 思いっきり射精したいけど堰き止められているので出せない、でも唇が離れていくのも名残惜しい、孔も犯して欲しいと、身体中が晋太郎を求めていた。
「もっと、キスして」
「ごめん、俺が我慢できない」
 晋太郎は前を寛げると、下着を脱ぐ時間さえも惜しんで、大きく口を開けた豊香の後孔に突き入れた。
 豊香の身体が自ら収縮し、晋太郎のペニスを千切れんばかりに食い締めた。
「すげー、すげーよ、豊香。最高だ、こんな名器だったんだ。」
 ゆっくりと抽挿を始めた。
「うわー、直ぐに出そう。うわっ、出る出るっ」
「中、晋太郎のでいっぱいにして」
「ごめん、早くて」
 言い終わらないうちに、豊香は体内に熱い飛沫を感じた。
 しかし、引き続き存在感のある肉塊が存在していた。
「やべーよ、全然治まらない」
「いいよ、何回でも出して」
「うん、豊香も俺のでイって」
 何回か射精した晋太郎は、本来の使命を思い出したらしく、淫具でも攻め始めた。
「あ、りょうほ…は、ダメ、んんっ」
 亀頭の先と淫具の先が近い場所に位置しているときに、一番感じる。それを察して晋太郎は腰をグラインドさせてきた。
「ひやっ」
「いいんだね?」
 首をガクガク上下させる。
 キモチイイ、キモチイイ…豊香の頭の中はそれでいっぱいになっている。
「あうっ」
 突如、陰茎を切り取られたような衝撃を受け、そのまま背を仰け反らせ、ヒィヒィと泣いていた。

2020.07.05
【三】
「御子、おはようございます」
 夕べは気を失った。
 目覚めたら昨日と同じ部屋で寝ていた。
 身体も髪もキレイになっていたので、誰かが洗ってくれたのだろう。
 吐精口には淫具も器具も無かった。
「今夜で儀式は最後です。今宵は総本山の広場で執り行われます。」
「広場?屋外!?」
「はい、屋外です。」
 一体、何をする気だと、また豊香は不安に陥る。
「御子、今宵はこちらにお着替えください。」
「ありがとう」
 用意された着物は装飾が派手だが普通に着られるものだった。
 豊香は布団から起き上がり浴衣を脱ぐと、天を衝くほどに屹立したペニスが目に入る。もう排尿にしか使用することがないのかもしれないと、絶望感を味わう。
 しかし反面、後孔が疼き、熱い肉塊を突っ込まれ掻き回されたいとも思っている。
 その為にまた、蜜口から透明な液が溢れ、屹立を強める。
 たった三日で、豊香の身体は淫靡に作り替えられていた。
 用意されていた下着には、MAXで屹立したペニスは全てが収まりきらない。腹の上に亀頭が出ていたが、豊香はもう気にもならなかった。
 派手な着物は、飛鳥様式の着物で、腰に布を巻き、上半身は洋服のような袖が付いていて、前で合わせる。
 村で再来と言われている皇子は、豊聡耳皇子、所謂聖徳太子。
 今宵の屋外は、法隆寺の五重塔と金堂のある広場。
 いよいよ豊香は『御子』になる。

 法隆寺金堂も五重塔も、豊香が見てきたものとは形も色も位置さえも違う。
 回廊を通り広場の真ん中で、派手な着物を着た豊香がただ一人で立っている。
 この場所で待つようにと言われ、もう一時間近く立ったままで待たされている。
 静かに、黒衣の男性が門から入ってきた。
「豊香、待っておったぞ。」
「豊聡耳皇子、お待たせ致し申し訳ございません。」
 豊香は、ずっと豊聡耳皇子が豊香の元にやって来ると思っていた。
 正しくは豊香が豊聡耳皇子の時代にやってきて、豊聡耳皇子の能力を受け継ぐことを儀式と言う。
 しかし、豊香が飛鳥時代に連れて来られたのだ。
 大仁と晋太郎は、豊香が御子として目覚めるために遣わされた従者で、これからも豊香の側に遣えることとなる。
 そう教えられたのは、着替えを済ませ、宵闇が迫るのを待つ時間だった。
「豊香を、ずっとずっと、守っていくから、俺らを側に置いて欲しい。」
 大仁と晋太郎に迫られ、豊香は頷いていた。
「二人は、僕が御子って知っていたのか?」
「知っていたというより、気付いた方が正しい。二人とも豊香に一目惚れしてたんだ。」
「え?」
 豊香は二人が自分に対してそんな気持ちを抱いていたとは露ほども思っていなかった。
「豊香、どうした?」
「申し訳ございません。今宵は、よろしくお願いいたします。」
 豊聡耳皇子は、豊香を夢殿へと誘った。
 扉を閉めると豊聡耳皇子は豊香を抱き締めた。
「其方の中に、入れてくれるか?」
「お願いします」
 過去の人間と交わることがどんなことか、豊香には理解できない。
 着物を脱ぎ下着一枚になると、豊聡耳皇子は豊香の下着に手を掛け、紐を解いた。
「綺麗な形をしている」
「豊聡耳皇子、皇子には恋煩う人は居ないのでしょうか?」
「豊香をずっと恋うていた。其方と交合し、全てを豊香に与えよう。」
 豊聡耳皇子の口腔に豊香のペニスが包まれた。
「んっ…」
 今まで射精を許されていなかったので、あっという間に追い詰められた。
「皇子、出ちゃいます、口、ダメっ」
 豊聡耳皇子は好物を食すように舐めていて、離す気配が無い。
「あ、あ、あぁっ…」
 濃厚な精が吐き出された。
「あ、ごめんなさい」
「構わぬ、今宵、予は其方の伽じゃ、豊香を食らい尽くす。」
 言うと本当に待ちきれなかったというように、豊香の身体を床に留めると両脚を大きく開き、豊聡耳皇子の肉塊を突き入れた。
「ああっ、んんっ」
「善いか?」
「んんっ、スゴくイイっ、これ、しゅき」
「そうか、好きか」
 閑かな堂内にじゅぶじゅぶと水音が響く。
「豊香の孔は男を虜にする孔だ。もう保たぬ、中に全て出す、零すなよ?」
「ああんっ、いっぱい出してぇ」
 ごぶっ
 豊聡耳皇子は豊香に種付けをした。

2020.07.06
【四】
 豊聡耳皇子とは夜が明けるまで何度も交わった。
 豊香は豊聡耳皇子の精を後孔から一滴でさえ零さぬように、ぎゅうぎゅうと締め付けたので、豊聡耳皇子は苦笑しながら豊香を愛撫し続けた。
「可愛い、豊香は可愛すぎる。離したくは無いが約束だからな、一夜の契りで満足しよう。」
 豊聡耳皇子は豊香の身体を抱き締めると、深く口付けて、夢殿を退出した。
 豊香も慌てて身支度をし、夢殿を出た。
 豊聡耳皇子の姿は何処にもなく、大仁と晋太郎が待っていた。
 二人に手を引かれ、五重塔の中に足を踏み入れると、眩い光に包まれた。
「豊香、行くよ?」
 大仁は何事も無かったように五重塔を出た…所は、大仁の家の前だった。

 現代に戻ってきた。
 時も元の時のまま、1秒も過ぎていなかった。
「タイム、スリップ?」
「豊聡耳皇子だからね。」
 なぜか納得してしまう。
 しかし、変えられた身体は戻っていない、豊香の身体を知った二人も忘れてはいない。
「大仁、晋太郎、夜が明けるまで時間があるよね?しよ?」

「絶対、無理!」
 大仁に騎乗位の形で自らペニスを導き入れろと言われる。
「大きな声を出さないの、大仁の家の人が起きちゃうから。大丈夫、ゆっくり、腰を落として、」
「晋太郎、どうして大丈夫とか言うの?挿入れたことあるの?」
「挿入れられたことはないけど、挿入れたことはあるよ。」
「いつ?晋太郎、同級生なのに。」
「それは終わったら教えてあげるよ。」
 大仁は腰を揺らして待っている。
「豊香、気持ちいいこと、しよ?」
 豊香は気持ちいいこと、に弱い。
「豊香、可愛い。」
 晋太郎は前に手を入れると、熱く滾る肉塊を下から上に扱き上げた。
「ダメぇっ、イク、イクッぅぅぅ」
「良い子だから、言うことを聞いて?」
 晋太郎が大仁のペニスを握り、後孔の入口に導く。
 大仁は腕を引き腰を落とさせる。
「うあっ」
 ぐちり
 大仁の亀頭を飲み込んだ。
「そのまま、そう、ゆーっくり、息を吐きながら、そうそう、ほら、全部挿入いった。」
 それは分かっている、物凄い存在感だ。
 そこを晋太郎が背後から肉塊を、扱き続けて追い詰める。
「だから、ん、ダメぇっ…あぅぅっ」
 なんと晋太郎のペニスも一緒に挿入されたのだ。
 ゆっくり、晋太郎のが挿入いってくる。
「全部、挿入いったよ。」
 耳元で晋太郎が囁く。
「ど…して、あぅぅっ」
「豊香が言ったんだよ、二人で一緒に抱いて欲しいと。」
「ああん、ああん」
 圧倒的な重量と充足感で、身体が満たされていく。
「でもギチギチで動きにくいな。」
 晋太郎のがズルリと抜けた。
「いやぁ、しん…たろぉ」
「すげー、可愛い」
 大仁が唇を重ねた。
「んふぅ」
「豊香、自分で動いてみて、イイとこ、教えて。」
イイところ?どこだろ?
 大仁の胸に手を付き、腰を動かす。
「あ」
「ここ?」
「ん、ここ」
 すると、大仁が下から突き上げる。
「あ、あ、イイっ、いいのぉ」
「豊香」
「んん」
 晋太郎が口付けてくる。口腔内を嬲られ恍惚となる。
「豊香イッて。イキまくっていいから。」
 イキまくるって、身体が保たないから。
 それでも豊香は性に翻弄されていく。
 豊聡耳皇子に男を虜にする孔と言われた通り、大仁も晋太郎も、勿論豊香もすっかり囚われていた。

2020.07.07
【五】
 あれから一ヶ月。特に何の変哲も無く日々が過ぎていく。
「豊香は今日卒業式か。」
「俺も卒業式なんだけど。」
 豊香と晋太郎は、大学へ進学するのを機に、家を出ることにした。
「御子は、何をすればいいんだ?」
「豊聡耳皇子は種付けって言ってたから、10カ月後に生まれるんじゃないか?」
「なにが?男に子は産めん。」
「何かあったら考えればいいんじゃね?」
「二人はタイムスリップしか聞いてないの?」
「んー」
 豊香は二人が何か知っていると踏んだ。なら何かあるまで待とう。
 それまでは二人と快楽を共にしようと、腹を括った。

 明日、大学の近くに引っ越しをするという夜、豊香は風呂に入っていた。
 そこへ、仕事から帰ってきた父親が入ってきた。
「なに?一緒に入る?」
「あぁ」
 その時、父親のペニスが、大きく太く充血していたことに気付き少し怯んだ。
 湯船に浸かる豊香の鼻を摘まむと、いきなりその口に自身のペニスを突っ込んできた。
「しゃぶれ」
「んんっ」
 父親は自ら腰を振って、豊香の口の中を出入りする。
 まさか、これか?豊聡耳皇子の言っていた男を虜にする孔、豊聡耳皇子は男色だったのか?豊香はグルグルと考えを巡らせながら、黙って父親のペニスをしゃぶった。
 髪を掴まれ湯船から立たされると、後ろを向かされ尻を突き出す形で壁に手を突かされた。
 指で挿入れられるか確認すると、ペニスを突き入れてきた。
「あっ、あんっ、イヤ、父さんっ、ダメ」
「凄いな、しゃぶっただけで濡れるんだ。女よりも凄い。そして男は子を孕まない」
「でも」
「豊聡耳皇子に言われたのだろう?男を虜にする孔だと。父親にも味わわせろ!」
「んっ、んっ…」
 父親は最後まですると、風呂場から引きずり出し、豊香の部屋のベッドで何度も犯した。
 そのまま、豊香は家に監禁されてしまった。

 豊香には、兄も居る。
 父親と兄に代わる代わる犯され、常にどちらかが監視していて身動きが取れなかった。
「にいちゃん、やめて、こんなこと、間違ってる」
「ダメだ、こんなスケベな孔を持った弟を、世の中に出すわけにはいかない。」
 そう言って抽挿を繰り返す。
「んんっ、あーっ、やだぁ」
「父さんの言うとおりだ、スゲー具合が良い」
 どっちがスケベだと思いながらも、逃げ出した際に母親がどうなるか気になって逃げられない。
 一週間が過ぎた頃、父親も兄も仕事で出る機会が訪れた。
「豊香、早く逃げて!」
「でも、母さんが危険じゃ無いか!」
「それは平気、実家に匿って貰うから。豊香は自分の安全を考えて。」
「ありがとう」
 豊香は着の身着のままで家を出た。

「そうじゃないかとは思ったけど、証拠もなく踏み込めなくて、すまん。」
 大仁と晋太郎が謝る。
「ううん、それは平気だけど、母さんが心配だ。」
「豊香、黙っていたけど、儀式について、ちゃんと話しておくよ。」

 1400年前、豊聡耳皇子の子孫は蘇我氏によって絶滅させられた、というのが現在の定説だ。
 しかし、本当のところは、豊聡耳皇子には実子がいなかった。
 そこで、豊聡耳皇子の遺伝子を受け継ぐ者を、豊聡耳皇子自身で選び、直接受け渡す。それが『儀式』となる。
「因みに歴代の継承者に光源氏もいる」
「え?あの人って小説の主人公じゃないの?」
「そう言うことになってるな。」
「…光源氏もあれ、やったの?」
「あれ、やったらしい。」
 伝説の皇子は、豊聡耳皇子と交わることで産まれる。
「産まれる?」
「そうだ、産まれるんだ。」
「よく、分からない。」
「どうして豊香を性交漬けにしているか、それは伝説の皇子が豊香から産まれるために、羊水の代わりに精液で満たすために性交するんだ。」
「僕が、産むの?」
「豊香を産むんだ。伝説の皇子たる豊香を産むんだ。豊香が伝説の皇子を産んだら、御所に移り住み、政を行う。その遷都を先に済ませてしまおう。豊香のお母さんは飛鳥で匿おう。」
「その方が、豊香と一緒に居られるしな。」

2020.07.08
【六】
 飛鳥の御所は関係者しか知らないので、匿うには丁度いい。
 しかし、豊香と母親の部屋は大きく離れていた。
「はな、し…ちが…っっ」
 大きな風呂場で、中を洗うと言って二人して湯の中で屹立したペニスを突き立てる。
「キレイに洗ってやってるけど?」
「カリが張っているのは、別の男のザーメンを掻き出す為なんだ、だから中を洗うにはペニスがベストなんだよ。」
 晋太郎が挿入いっているので、大仁が説明しながら豊香のペニスを扱いている。
「こっちもキレイにしてやるからな」
「ん、イキそう…」
 晋太郎が耳元で嫉妬の色を滲ませる。
「あっ、イクッ」
「やーらしいの」
 晋太郎のビッチが速まる。
「いいよ、イッて!」
「んふっ、ああん」
 びゅくびゅくと精液が飛び出し、湯の中に溶ける。
晋太郎もズルリと引き出し、湯の中に放つ。
「な、キレイになっただろ?」
「わかんないし。」
「なら、」
 二人して豊香を担ぎ上げる。
「ほら、よーく見てご覧」
 鏡を跨がされ、孔を目一杯広げられた状態でペニスを扱かれる。
「ん、ムリ…」
「なら、違いを確認して貰いますかね。」
 鏡の上で、豊香の孔は後ろから大仁のペニスを咥え込んだ。
「やぁ…ん」
「やじゃなくて、イイだろ?」
「ん、イイの、イイ。大仁のおちんちん、気持ちイイ」
 鏡にぽたぽたと孔から零れた精が落ちる。
 前から脚を抱えて晋太郎が挿入いる。豊香の孔はもう、二本差しが平気で出来るようになった。
「あっ、しんたろのちんちん、イイっ、僕のちんちん、しんたろの腹に擦れるぅ」
 最近は豊香がセックスに貪欲だ。
 無理な体位でも一度はチャレンジする。
「あ、奥、熱いの、クル」
 大仁が射精し、次いで晋太郎が射精した。
 最奥の飛沫を感じ取り、豊香も射精した。
「しんたろ、また、洗って。しんたろのちんちんで。」
 こんな爛れた性生活を送っていた。

 豊香の二十歳の誕生日は、朝から体調が悪かった。
「寝てれば大丈夫」
と言う豊香を制して、晋太郎は一緒に大学を休んだ。
 床に伏せっていたが、吐き気をもよおすので、トイレに近いリビングルームに洗面器を用意してソファでうつうつらしていた。
 豊香の身体を抱き寄せ、背中を摩りながら一緒に夢うつつの晋太郎は、苦痛の表情を浮かべる豊香に、不安を抱いていた。
 昼近く、豊香は腹部の激痛を訴えた。
「何?なんなの?痛い…」
 床を転げ回るほどの激痛に、救急車を呼ぼうとスマホに手を伸ばしたときだった。
 ゴボッと言う音と共に、口から直径3センチ程のビー玉のような玉を吐き出し、息絶えた。
 不安は的中した。遂に、この日がやって来た。
 晋太郎は急いで玉を拾い上げ、ポケットに入れた。
 豊香の『亡骸』を抱き上げると、寝室へ連れて行き、大仁に電話をした。
「どうした?」
「来た。豊香が、産まれ…た。」
「なら、早く蘇生してくれ、手順はわかるな?」
「僕が、蘇生していいのか?」
「蘇生は、晋太郎の役目だ、僕じゃ、無い。」
「大仁、覚悟してた?」
「そんなの、あの儀式の日から覚悟してたよ。豊香は、晋太郎のこと…、」
 続く言葉はなかった。

 豊香の後孔に玉を押し込む。
「豊香…本当のことを言わなくてごめん。」
 ピクリとも動かない豊香に、そっと口付ける。
 自身で何とか勃起をさせ、それを豊香に埋め込む。
「豊香、気持ち、イイ?」
 何も言わない豊香を穿つ。
 玉が所定の場所に届かないと、「豊香」の蘇生は完成しない。
 何度も何度も腰を打ち付け玉を奥へと促す。
 泣きながら黙々と動く。
 先端に当たっていた玉の存在感が、消えた。
「豊香?」
 口元に頬を寄せ、息をしているか確認すると、微かに感じられた。
「豊香、ゆたかっ」
 名を呼びながらピッチを速める。
「んんっ、あっ」
 唇が薄く開き、喘ぎが漏れる。
「豊香、ドライでイッてくれ、お願いだ。」
 今まで散々交わってきたので、何処を擦ったら善いのかは判っていた。それでも晋太郎には確信が無かった。
「あっ、ああんっ」
 豊香の身体が跳ね、ゆっくりと瞼が開いた。
「しんた…ろ?んんっ」
 豊香が晋太郎の腕にしがみ付いた。
「ま…て、イク…イクっ」
 ビクッと、身体が跳ね上がり、しがみ付く手に力が隠った。
「あ、あ、中が、イッちゃった、中…」
「うん、豊香、誕生日おめでとう。」
 深く口付ける。
 それに豊香が応える。
「んふ…ん…ありがと…」

2020.07.09
【七】
「え?」
 夜、戻ってきた大仁から、豊香は意外な言葉を聞いた。
「だから、豊香に嫁を貰わないといけないんだ。」
「でも、僕は二人に操を立てたじゃないか!女は要らない、二人と生きて行きたい。」
「それは、無理なんだ。ごめんな。」
「なんだよ、なんで僕だけ何も知らされていないんだよ!二人でコソコソと!」
「豊香が知っていても何も出来ないじゃないか。昼間、息を引き取った豊香を蘇生したのは晋太郎だ。僕らがお膳立てしないと、豊香は死んじゃうんだよ!」
「そんな、知らないよ!僕は守られてばかりで、二人を愛しちゃいけないの?そんなこと、判ってると思ってた。大仁!君は僕のことどう思ってるの?晋太郎!君は僕のことどう思ってるの?」
 晋太郎が不意に立ち上がった。
「キリが無い。僕は帰る。あとは豊香のお母さんに頼んでおいた。」
「しんたろ?」
 豊香が晋太郎に気を取られている内に大仁も立ち上がった。
「豊香、君は選ばれし者だが、僕らは違う。拘束される義理は無い。」
 そう言い残して二人が去った。

「晋太郎、豊香の父親と兄はどうした?」
「記憶を封印した。もう大丈夫だ。…明日には花嫁が到着する。…豊聡耳皇子が選ばれた花嫁だ。僕らの仕事は完全に背後に回る。」
「そうか。」
「暫く、切ないな。」
「うん。豊香に言えないなんて。」
「大仁は今夜、宿直か?」
「ああ。晋太郎は?」
「周辺の警備に回る。豊香が拉致されたら困るからな。」
 そう言って晋太郎は苦笑した。

「なんなんだよ!人を馬鹿にして!絶対、花嫁なんか迎えない。僕は、僕は…」
 豊香の初恋は幼稚園の先生という平凡な男の子だった。
 小学校のクラスメート、高校の先輩と憧れはあったが恋愛には発展しなかった。
 大仁と晋太郎がいたから、恋人なんかいらなかった。いや、大仁と晋太郎と居たかったから、女の子に興味があるような振りをして話を合わせていた。
「豊聡耳皇子、どうして僕を選んだんですか?選ぶなら、大仁と晋太郎も一緒に選んで欲しかった。」
 今度二人に会ったら、ちゃんと言おう、豊香は一人決意した。

 豊香の裸を目にすると、誰もが心を奪われその身体を欲するようになるのだが、一部でも覆ってしまうと、効力がなくなる。
 新しく産まれた豊香は、女性に効力を発揮するはずだ。
 自ら身体を開き、豊香を受け入れる…そんな豊香を大仁も晋太郎も見たくはない。
 可愛く強請る豊香の姿を想い出として胸に刻んで生きて行こうと決意していた。

 おかしい。
 身体が熱い。
 こんな女、欲しくは無いのに。
 僕の気持ちは、大仁と晋太郎を求めているのに。
 母が連れてきた女と二人きりになった途端、僕は女を押し倒していた。
 下半身が痛いほどに勃起している。
 これを女に突っ込めば、スッキリするはず。
 でも。
 晋太郎に舐めて欲しい、大仁に扱いて欲しい。
 二人が戻ってくるなら、この痛みに、耐える。

「戻された?」
 宿直部屋で、大仁が晋太郎に問う。
「うん。豊香のお母さんから、二度と女は要らないと突っ返されたと連絡があった。」
「女の方もよく耐えたな。」
 大仁がおどろく。
「押し倒されたけど、着ている物は一つも脱がなかったそうだ。」
「少し、時間を置くか。」
「でも、時間が無い。このままだと豊香は欠陥として廃棄されてしまう。」
 選ばれた御子なのに、男としての機能を完全に拒絶させた癖に、男としての機能しないと廃棄なんて、身勝手にも程があるが、豊聡耳皇子の再来ならばそれくらい可能で無ければ不能も同然なのだろう。
「次は、僕が連れて行く。」

「絶対に嫌だ。僕が愛しているのは晋太郎、お前なんだぞ?」
 晋太郎の胸に甘い疼きが甦る。しかし、ここで負けるわけにはいかない。
「彼女と、婚姻関係を結んでください、今、ここで。僕が見ています。」
 豊香の瞳が揺れている。瞬きしたら溢れ出るだろう。
「しんたろ、今の僕の言ったこと、聞いてた?僕はしんたろを愛し…」
「ダメなんだ。豊香は万人を愛してくれなきゃ、ダメなんだ。ごめん。」
「抱けば、いいのか?それで晋太郎の職務は全うできるのか?」
「職務なんてそんなたいそうなものじゃないから。」
「あの女を抱いたら、解放されるか?また晋太郎と大仁と、馬鹿やって騒げるか?」
 豊香の顔は本気だった。
「晋太郎も、ここに居て。見てて。ちゃんとセックスするから。」
 晋太郎の胸が張り裂けそうなほど苦しかった。
 隣室から女性を連れてきて、豊香に会わせた。
「下着を脱いで」
 いきなり言われた女性は及び腰で晋太郎を見た。
「豊香、君が脱いだらいい。」
「晋太郎は黙ってて。早く。」
 豊香は互いに下着だけを脱ぎ、まるで僅かな逢瀬に交合するかのようなせっかちなセックスをした。
「晋太郎、見てよ。ちゃんと中で出したから。」
 豊香は女性の性器を広げて見せ、生ゴミでも扱うかのような残虐な言葉を投げつけた。
「これで、終わりだから。」
 そう言って向けた背中は、震えていた。

「どうなっているんだ?」
 大仁がイライラとした口調で晋太郎に詰め寄る。
「ごめん、失敗した。豊香の気持ちを逆なでした。」
「しかし、おかしいよな?産まれた玉を戻したんだから豊香は男色じゃなくなっているはずなのに、どうしてこんなに執着している?」
「判らない。誤算…なのか?」
 あれから豊香はすっかり部屋に閉じ籠もってしまい、姿を現さない。
「このままじゃ、大学も留年する…大仁、僕がもう一度豊聡耳皇子のところへ行ってくる。」
「危なくないか?」
「もしも帰れなかったら、豊香は頼んだ。」
「でも、豊香は晋太郎に、」
「いいんだ、大仁に頼みたい。」
「わかった。すまない。」
 本来、タイムスリップは豊香が御子になるために行うのだが、晋太郎はこの作業を行うために、小さな頃から訓練をしてきた。
 今一度、豊香のために時空の歪みを旅することにしたのだ。
 それから5分後、晋太郎が辿り着いた場所は、豊香の寝室だった。
 ドタッと、物凄い音を立て上から落ちてきた。
「痛っ」
「誰っ?!」
 晋太郎が、豊香の足元に転がっていた。
「しんたろ…何、してんだよ。」
「豊香。今一度、豊聡耳皇子の元へ行って来た。」
「え?」
 豊香は大きな瞳を更に大きく見開く。
「だって、あれって、え?晋太郎が出来るのか?」
「そんなことはどうでもいい、皇子が、正常に機能しないなら…廃棄しろと…豊香を…」
「そっか。廃棄でもいい。僕は晋太郎が好き。晋太郎に会えないなら御子になれなくても…この世の中から消えてもいいんだ。」
 晋太郎は思わず豊香を抱き締めた。
「違う。廃棄して、僕に…僕の為に生かせと。」
「晋太郎と一緒に居て良いのか?」
「あぁ、僕のものだ、豊香…愛してる。ずっと言えなくてごめん。」
「しんたろ」
 豊香が晋太郎にしがみ付く。
「大仁は?」
「大仁がいないと、寂しい?」
「寂しいけど、晋太郎が居てくれるから平気。」
 抱き締める腕の力が強くなる。
「ここを、二人で出る。いいか?」
「うん。」

2020.07.10
【八】
「お疲れー」
「お疲れ様です」
 地方都市にある、洋菓子の製造工場。ここに豊香と晋太郎はいた。
 毎日、朝から晩まで同じ作業を黙々とこなした。
 定時になるとアパートに帰る。
「しんたろ、ご飯できた。」
 今夜はスパゲッティミートソース。
 豊香が意外と卒なくこなす。
 一緒に食事をして、風呂に入って、休みの前の日だけセックスする。
「しんたろ…と、一緒…だと、毎日…たのしい…んんっ」
 豊香は文句も言わずに毎日働いている。
「豊香さ、後悔してない?」
「なんで?言ったよね?二人と一緒に居られたら、なんも要らないって。でも、」
「なに?」
「本当はさ、」
 晋太郎の耳元で「毎日えっち出来たらもっと嬉しい」と囁いた。
「身体、辛くないか?」
「なんで?逆に体調がいいんだけど。」
 ケロリと言われ、抱き寄せる。
「じゃあ、明日から遠慮しない。」
「うん、遠慮しないでいい、しんたろの欲望のままに、して。」
「欲望のままに、ね。」

 晋太郎が豊聡耳皇子から言われたのは豊香が御子として目覚めるまで村を離れ豊香の能力を発揮できることを見付けると言うことで、決して爛れた性生活をしていいとは言われていない。
 豊香が御子として目覚める…それは村だけを指すのか、日本全体を指すのか、晋太郎には今ひとつ理解できていなかった。
「豊香、御子になれなかったからさ、俺の…嫁になってくれないか?」
 晋太郎はあり得ない告白をしていた。
「…いいよ。晋太郎の嫁になる。ご飯も作るし、夜の方も…」
 言って顔を赤らめる。
 途端に晋太郎は強烈な耳鳴りに襲われた。
「な!」
「どうした?」
 豊香の言葉さえも聞き取れないほどの耳鳴りがキーンと鳴り続ける。
「豊香…を、嫁にしたら…いけない、のか?」
「晋太郎?」
「豊聡耳皇子、俺はどうしたらいいか、判らな…う」
 耳を押さえてのたうち回る。
「晋太郎!どうしたんだよ!」
「う…あぁ」
 その時、二人の前に豊聡耳皇子の幻影が現れたのだ。
「皇子」
『豊香、久しく見えなかったが元気そうであるな。…まだ、御子として目覚めないようだが、晋太郎に執着している理由はなんだ?』
「執着…でしょうか?僕はこの人を愛しているんです。一時も離れていたくない。皇子にはそんな人はいなかったのですか?」
『愛…それはなんだ?』
「え?」
『大体、今の生活では晋太郎を幸せにしてやることは叶わぬだろう?豊香は野心を持て。晋太郎に至福を与えられる人間なのだからその才を活かせ。』
「皇子、私は、」
『晋太郎。君は私との契りを犯してまで豊香を選んだのだろう?なら、豊香をしっかり支えよ。共に歩むことも必要だろう、私のように子孫を残せなかった後悔をさせたくなかったのだが、その道を選ぶのならそれはそれで構わぬ。豊香なりの幸せを見付けなさい。君は選ばれし者なのだからな。』
「皇子、僕はまだ、選ばれているのですか?」
『私が、人選を間違えると思うか?』
 幻影の豊聡耳皇子は、不敵な笑みを浮かべ、両手を広げた。
『我が子たちよ、道を違わぬように。』
 スッと、豊聡耳皇子は消えた。同時に晋太郎の耳鳴りも治まった。
「皇子は、僕たちの関係を認めてくれたってこと?」
 豊香は晋太郎に抱き付く、その身体を晋太郎も抱き締めた。
「多分」
「なら、村へ帰ろう?大仁が待ってる。」
 抱き締めた腕に力が入った。
「大仁が気になる?」
「…うん。大仁が一人で頑張っているような気がする。」
 それは、事実なのだが晋太郎としてはまだ帰りたくは無かった。
 それには、豊香の父と兄のことがあったからだ。

「豊香を何処へやった?」
 豊香の父は大仁の父へ直談判に来た。
 豊香の父と兄は豊香を監禁強姦したことの記憶操作をされ、同時に儀式についても記憶からなくしていた。
「同じ『徳大寺』を名乗る者同士、ゆっくり説明をしてやろう。」
 そう言って大仁の父は語り始めた。
 徳大寺家は西暦600年代から代々続く家系だ。
 豊聡耳皇子には二人の弟があり、下の弟は皇子を慕いよく付いて回る子供だったが、成人後は臣下へ降下することとなっていた。
 皇子専属の従者として、影となり身を挺して尽くしたが、ある日を境に都を離れた。
 その後、豊聡耳皇子の一家は流行病で死滅してしまう。
 皇子の後継者として2人目の弟が望まれたが、彼は皇子の密命を受け関東を覇権していたのだ。
「その弟の家系が我が『徳大寺家』となる。」
 徳大寺正嗣(とくだいじまさつぐ)は、豊聡耳皇子の血筋を絶やさないよう、表立たないようにひっそりと暮らしていた。
 その間に様々な研究をし、種々の裏切りや政治的失脚により無念の死を迎えた豊聡耳皇子の能力を受け継がせる為に必要な技術や地位、権力を掌握した。
「正嗣により、仏教の教えを広めるために代々寺を受け継ぐ使命を負った我が家、秘儀や秘伝を受け継ぐ使命を負った家、政治に長けた家、そして、」
 大仁の父は豊香の父を指さす。
「正嗣の意思を継ぐ者としてあなたの家がある。」
 だから、豊香の父親は仏教の研究をしており、兄もその道を歩んでいる。
「豊香くんは、正嗣の意思を最も強く継ぐ者、つまり豊聡耳皇子の血と正嗣の想いを受け継いでいるのだ。時空と記憶を司る家が豊香くんの幼馴染みの晋太郎くんの家だ。って、まさかあなたはこの話を豊香くんに伝えていないのか?」

「兄上、今生の別れです。最後に…」
 正嗣は皇子の胸に縋った。
「正嗣、済まぬ。私に力がないばかりに君に負担ばかり掛ける。許せ。」
 皇子は長い時間を掛け、最後に正嗣の唇を味わった。
「お願いです、最後に…兄上…豊聡耳の精を我が身内に頂けませぬか?それで、諦めます。子を成します。お願いです。」
「正嗣…」
 皇子は正嗣の着物の裾を寛げ、中から覗く熱く滾る欲望に唇を寄せた。
「あっ、兄上…」
 切なげな声を発し、愉悦の時を待つ。
 じゅぶじゅぶと音を立て吸われる。その度に蜜を垂らす。
「あっ、ああ、兄上、欲しいです、兄上の熱い肉棒を、私の中にください」
「しかし、正嗣は男で…」
「ここに…」
 正嗣は自ら後ろの孔を示した。
「毎日毎晩、あなたのモノが欲しくて欲しくて…身悶えました。私はきっと変なんです。だから用明天皇陛下から見放された。」
「それは違う。正嗣は、可愛い。だから陛下は正嗣を世継ぎ争いに巻き込みたくなかったのだ。正嗣には長く生きて欲しい。」
 皇子は既に怒張しきったモノを取り出すと、今度は躊躇わずに正嗣の孔目掛けて突っ込んだが、勢いよく跳ね返された。
「兄上、しばしお時間を頂けますか、解しますので」
「待て」
 言うと指を一本、ツプリと差し込んだ。
「力を抜け」
「抜いてはいるのですが、」
「どれ」
 皇子は空いている手を正嗣の腹まで届く肉棒を握りしめた。
「ああっ」
 肛門筋が緩む。
 指を鍵の形にしたり伸ばしたりして、中を擦る。
 緩んできたところで指を増やす。それを繰り返し三本まで入った。
くちくちと音がする。
「兄…うえ」
 皇子は灯火用のなたね油を砲身に塗り込み再び突っ込んでみる。
「あっ、ああっ、」
 メリメリと正嗣の孔の中に、皇子の肉棒が突き刺さる。
「ううっ」
「許せ、もう、止まらぬ」
「んんっ、平気…です…あぅっ」
 皇子は正嗣の唇を吸った。
「ああ、本当に可愛い。常に側に置いて、ずっと愛でていたい。正嗣、許せ。本当は離しとうない。」
 ずっぽりと、根元まで突き刺さる。
「全部、入れたぞ。動くぞ。」
「ん、いっぱい、動いて…ください、」
 入れてしまえば、後は欲望しかない、皇子はめちゃくちゃに突きまくった。
「イイ、イイぞ、正嗣。スゴく気持ちイイ」
「私も…豊聡耳…お慕いしております、離れても、ずっと、ああん」
 皇子の額から汗がパタパタと落ちる。
「なんと可愛い声で鳴く。もっと愉悦の声を出せ」
「んんっ、あっ、イイ、イイっ、スゴく気持ちイイ、もっと、もっと中擦ってっ、ああん」
「正嗣の声は腰に響く、ううっ、もう出すぞ」
「いっぱい出してください、私の中にいっぱい出して…」
 皇子が吐精するのと、正嗣の蜜口から勢いよく精が、吹き出した。
 ドクドクと止めどなく溢れる。
「あ、あ、止まんない」
「なんと可愛いのだ、正嗣、異国へなぞ行かせとうはないぞ。」
 唇を合わせ舌を絡ませ、くちゃくちゃと音がするほど吸い合った。
「兄上、私は必ずや都の平安のために東の国を治めて参ります。」

2020.07.11
【九】
「今、豊香くんは才能を開花させるための修行をしている。戻ってきてもあなたの達とは無縁の世界で頑張っているのだから邪魔をしないで欲しい。」
 豊香の父と兄は大きく項垂れ、「はい」と力なく頷いた。


 晋太郎は豊香に腕枕をしながら、父と兄が聞いたと同じ話を聞かされた。
「それってさ、元を正せば晋太郎も大仁も僕も、皆正嗣さんの子孫ってこと?」
「そうだよな、うん」
「そうなると、兄ちゃんとするのと同じじゃね?」
「それが違…」
 晋太郎は慌てて口を噤む。
「しんたろ、まだ他に何かあるんだろ?そろそろ全部吐いたら?」
 晋太郎を責めるのでは無く、胸に顔を埋め、強請るように聞く。
「それは、大仁に確認しないと言えないんだ、ごめん」
「わかったよ。それぞれに担当があるんだね?でもさ、僕だけ選ばれただけで散々犯されてその癖目覚めないとか言われて割に合わない気がする。」
 豊香が愚痴ると晋太郎はギュッと抱き締めながら「いつか必ず話すから」と、小さく囁いた。


「あんっ、やっ、んんっ」
 朝。ティーシャツに下着の姿でキッチンに立つ豊香を、晋太郎が後ろから抱き寄せ、ティーシャツの裾から手を入れると、乳首を弄り始めた。
「ここも、気持ちイイ?」
「スゲぇ、気持ちイ…んんっ」
 乳首がプックリと自己主張し始めた。それを指の腹でグリグリと押し潰す。
「うわっ…んーーっ」
 豊香はイキそうになるのをぐっと堪えた。
「しんたろ、何す…あんっ」
 豊香の腰が晋太郎に押し付けられる。
「しんたろ、欲し…い、ください、僕のエッチなお尻に、しんたろのおちんちん…」
 晋太郎の勃起しきったモノに、豊香の尻肉を押し付ける。
「朝から、するの?立ったままで?」
 声も出せずにガクガクと首を縦に振る。
「俺の嫁さんは淫乱だ。」
 耳朶を甘噛みされ、耳穴に舌を捩じ込まれる。
「んふ…ん」
 気持ち善さそうな声が漏れる。
 晋太郎は下着の裾をずらして、脇から突き入れる。
「んっ」
 晋太郎の肉棒にはコンドームが装着されていた。初めからヤル気だったのは晋太郎の方だ。
「あっ、あっ、イイ、いいのぉ、んっ、あっ」
 シンクに手を付きガクガクと揺さ振られる豊香は、顔を紅潮させ快楽を貪っている。
「豊香、出るっ」
「うん、出して」
 最奥に穿ち精を放つとその刺激で豊香はドライでイき、膝から頽れた。
「すっかり雌イキするようになったな。」
「そんなん、しんたろのせいじゃん」
 腰を支えられやっと立っている状態だ。
 ズルリと抜かれたペニスに、だらりとコンドームがぶら下がる。
「こっちも朝からスゲー出た。」
「しんたろ?」
「村に帰る」
「え?」
「俺達、離婚だ」
「なんで?」
「あん時、言っただろ?豊香が目覚めたから俺達の役割が変わったと。豊香の相手は、」
「それは、この間皇子がいいって言ってくれたじゃないか!皇子だって正嗣のこと愛してたんじゃ…あ。」
「思い出した?皇子は正嗣と愛し合っていたけれども離れた。それは互いの役割が違うからだ。豊香の役割はこの国を救うこと、俺の役割は、時を操ることと記憶を操作すること。わかるかな?」
 晋太郎の手が豊香の頬に触れた。
「夢のような時間だった。俺は生涯豊香だけを愛してるから。ずっと、ずっと君を守るから。君が忘れても俺は忘れない。これからは、大仁に愛して貰って。」
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!大仁も好きだけど僕は!晋太郎を愛してる。本当だ。あんなことが無かったら、高校の卒業式に告白するつもりだった。大学行ったら付き合って欲しいって。同棲したいって。」
「ありがとう。その言葉は俺の宝物だ。」
 晋太郎の唇が豊香の唇を塞ぎ、深く深く口付けた。豊香もそれに応えたいのに、意識が遠のいていった。


 豊香は村の部屋で目覚めた。
 隣には大仁が寝ていた。
「大仁!晋太郎は?!」
 慌てて大仁を揺り起こす。
「晋太郎?何のことだ?」
「儀式のあと、大仁と一緒に僕の尻孔に突っ込んだ晋太郎!」
「なんだよ、まだ足りないのかよ。」
 大仁は豊香を組み伏せると両脚を大きく広げた。
「さっきヤッたばかりだからまだ中グチョグチョだからな。」
 言って自身の肉棒をグイと押し込んだ。
「うふ…んんっ」
 途端に豊香は歓喜の声を漏らす。
「違…したいんじゃ無くて、」
 有無を言わさず大仁は激しく突くので、豊香はただひたすら喘ぐしか無かった。
「ああっ、ん、あん、うぁ」
「今朝も具合のいい孔だ、上のお口もあんあん言いやがって。」
 違うっ、大仁が違うと、豊香は気付いたけれど、大仁が果てるまで延々と行為は続いた。

2020.07.12
【十】

なんで豊香の記憶操作ができてない?君のこと覚えているぞ。
目が覚めてからずっと君を探してる。居なかったことには出来そうも無い。
このままじゃ、任務を遂行する気すら無さそうだ。


なら、適当な人物像を作り出してくれ。最低な人間とでも何でも構わない。


「晋太郎って、医者の息子だろう?」
「医者の息子?違うよ、晋太郎は甘い物が苦手で料理も出来ない和菓子屋の息子だ。」
 豊香は完全に不自然であることを悟った。
「そんなことより、豊香は俺の嫁さんなんだから、よそ見すんな。」
 大仁は豊香に考える暇を与えないよう、常にセックスへと誘う。今も下着に手を掛け、手を突っ込んでいる。
「違…違う!僕は、晋太郎の嫁になったんだ。あいつ、料理が何も出来ないから、僕がやらなきゃ餓死する。洗濯だっていい加減だから、あいつがやると皺くちゃなんだ、掃除は徹底的にやる癖に。あいつに、僕の記憶を操作することなんか出来ない。だって、忘れる気が無いんだから。晋太郎のことは何一つ、忘れることは無い。何なら全部話そうか?晋太郎が二人の時、どんな風に僕を抱くのか?」
 大仁は手を離した。
「わかった、わかったよ。ギブアップだ。国のためになることをやる、それなら何でもいいんだ、豊香の才能を活かしてくれ。」
「僕の、才能?」
「この村…今使っている場所は豊聡耳皇子から引き継がれている土地だから自由に使って良い。豊香が政治家になろうが実業家になろうが、国のためになることなら何だっていい。それが認められれば晋太郎も豊香の前に姿を現せる。」
「それなら、」
 豊香は一呼吸も置かずに、身を乗り出すように語る。
「地震が来ても津波が来ても流行病が来ても大雨が降っても、強い社会を作りたい。その為の資金が必要なんだけど、どうしたらいいか分からないんだ。バイトじゃ間に合わない、起業出来るような何か…」
「それなら大丈夫だ。一緒に来るか?」
 いつの間にか大仁は運転免許を取っていて、車に乗せられた。
 行き着いた先には大きな工場があった。
「ここも、自由に使って良い。」
 中は24時間自動制御された野菜工場だった。
「今までの運営資金はここから出ている。年間売上は5億円。資産は100億円強。」
「そんなに長い間、続けてくれていたんだね。」
「1400年だから。ま、年間売上が5億円になったのはここ10年だけどな。」
「色んな人が関わっていたんだ。なら何としてでも形にしないとな。」
 その日から、豊香の顔つきが変わった。
 大学に通いながら運転免許を取得し、経営学を学ぶ。介護、保育、防災、消防についても熱心に学んだ。
 全ては、晋太郎を取り戻すために。

「父さん、聞きたいことがあるんだけど。」
 大仁と共に実家に向かうと、いきなり本題に入る。
「聖徳太子が進めた仏教の教えについて詳しく教えて欲しい。」
 父の得意分野を徹底的に学ぶ。
「兄ちゃん、日本に起こり得る災害について教えてくれる?」
 兄の得意分野で攻めれば、邪な気持ちは起こさない。
 災害時における世界の食事についてや、有効的な避難所についても調べ上げた。
「大仁、建築関係に詳しい人を紹介してもらえるかな?」
「避難所を作るのか?」
「うん、誰もが快適に過ごせる避難所。まだ相談だから。建てるのは先の話。」
「…晋太郎も、豊香に会えるように頑張ってるってさ。」
 豊香の肩がピクリと跳ねた。
「…そっか。晋太郎、元気なんだね。よかっ…」
 微かだが、嗚咽が聞こえた。
 大仁に嫉妬の色が滲み、豊香の身体を背後から抱き締めた。
「どうし…んっ」
 強引に唇を奪う。
 舌を吸われ、顎が外れそうになるくらい口腔内を犯された。
「妬ける。俺だって、豊香に惚れてるのに。」
 豊香の涙のあとを舐め取る。
「ごめん、こんな身体だけど、今は晋太郎の為に貞操を守りたい。」
 言うと大仁の腕を力強く解いた。
「俺じゃ、ダメなのか?」
 豊香が頬を赤らめ頷いた。
「うん、大仁じゃ、ない。」
 解かれた腕を再び絡め、ギュッと抱き締める腕を解いた。
「ハッキリと振られたな。悪かった。もう、言わないから、安心してくれ。」
 大仁は豊香に微笑んだ。
「晋太郎の代わりに、もう少しだけ側に置いてくれるか?君を守る義務があるからな。」
「だから、大仁のことも好き。それは変わらない。ただ、」
 豊香の唇に人差し指を当てる。
「ストップ。そう何度も振られるほど心臓強くない。」
 あ…という唇の形を作ったが、豊香は声に出さなかった。
「でもさ、ペンギンにしろ鶴にしろオシドリにしろ、一度相手を決めたら死ぬまで添い遂げるんだよな。それって、一対一ってことなんだよな。」
「あれ?豊香知らないの?コウテイペンギンは一年だけ一緒に居るけど翌年はペアを変えることもあるんだ。オシドリに至っては絶対翌年は違う相手を選ぶらしい。」
「なに!?本当?」
「安心しろ、鶴は添い遂げるから。…豊香の初恋って幼稚園の先生だよな?何時、晋太郎が好きになったんだ?」
「心臓、大丈夫か?」
「うーん、五分五分。知りたいけど知りたくない。」
「高校の修学旅行中。」
「そっか。」
 豊香と机を並べる、大仁には経験できなかったことだ。
「自分の頼りなさが露呈した。そして周りの人間が自分の数倍、大きく見えたんだ。」
 豊香はそれだけを大仁に告げた。


豊香に玉を戻しても逆転しなかったのは、お前のせいだ。

言いがかりは止めてくれ。それで無くても挫けそうなんだから。

ずっと挫けていろ。俺からしたらそんなこと道ばたの石ころ並みの詰まらないことだ。
豊香は恋愛の志向が逆だからだ。男色ってことだ。


まさか。だってずっと女の子を追い掛けていた。

最後に、変わったんだ。

誰だよ!

知るか。自分で聞け。
とっとと戻ってこい。


戻れるものなら戻っている。

豊香は何が何でも晋太郎じゃなきゃ嫌だとよ。

大仁がしっかりしてくれ。

高校の修学旅行中に何をした?

何だよ、いきなり。

自分が頼りなくて人が大きく見えたって。

心当たりが無いな。

豊香、何かしくじったんじゃ無いか?

うーん、しくじったんじゃなくて、俺が足を挫いた。

は?

中尊寺の金色堂に向かう坂道で転けた。
で、豊香が肩を貸してくれたけど、背の高さが合わなくて他の同級生が代わったんだ。あん時スゲー悔しがってたくらい?

それか。

それが?

そんなもんだ、きっかけは。



 聖徳太子は、ノストラダムスのように、未来の予言をしている。
 「未来記」と言うものだが、太子の子孫と言われている山背大兄王、舂米女王が自殺に追い込まれた際に全て焼失しており、財王、日置王らも、消息が不明のため存在が明らかになっていない。
 また、蘇我氏が作成していた歴史書は家の滅亡と共に焼失している。
 飛鳥時代にも多数の水害や台風被害、大地震、疫病による国民の損失を被ってきた。
 聖徳太子が仏教や病院(四天王寺)に拘ったのは全て国民が平和で幸せに過ごすことが大前提にあった。
 尚、現在流通している聖徳太子の予言書は後世の創作である。

「で、研究している大学によると、予言書とは別に予言はあったらしい。」
 二年振りに飛鳥に戻ってきた晋太郎は、余りにも豊香の雰囲気が変わっていて驚いた。
「ま、直接聞けば良いのだろうけど、豊聡耳皇子と聖徳太子が同じという説は、これまた後世の話だ。」
 容姿が変わったのでは無い、堂堂とした態度、迷いのない瞳の色、真っ直ぐに見据える目。
「後世の創作と言われている予言書に、我が村の伝承については記載が無い。」
 晋太郎の居ない二年で豊香は大人になっていた。
「詳細については報告書を確認してくれ」
 『聖徳太子の予言書についての報告書』が、晋太郎から豊香に手渡された。
「お帰りなさい、晋太郎」
 晋太郎を見詰める目は、変わらず少し揺れていた。
「ただいま」
 その一言で豊香は破顔する。
「東京の大学でこれだけのことを調べてきてくれてありがとう。」
 報告書を確認しつつ労いの言葉を掛ける。
 晋太郎は奈良の大学から東京へ転校して可能な限りの情報を収集してきた。
「次の仕事だけど、」
「うん」
 先程までと瞳の色が違う。
「京…都へ…」
「豊香、晋太郎は奈良に残そう。京都へはうちの弟を行かせる。」
 大仁と昨日決めたことなのに、突然別の提案をされ豊香は戸惑う。
「…うん、そうだね、そっか、うん。」
 なぜか晋太郎のこととなると、決断力が無くなる。
「つーか、旦那が帰ってきたんだ、久し振りに水入らずで良いんじゃないか?」
 豊香の顔が、見る間に赤くなった。
「あ!でも、僕は、離婚って言われて、スゴスゴ戻ってきた…んだし。」
「馬鹿だな。元々日本では同性婚は認められていない。」
 分かりやすく豊香の表情が明るくなった。
「なら」
「大仁。今夜は豊香の部屋に泊まる。明日は実家に戻る。」
 晋太郎がハッキリと告げる。
「同部屋でもいいけどさ、俺の部屋が空くからそこ使ってくれ。俺は近くにアパートを借りた。因みに遠慮じゃねえよ、その辺は察してくれ。」
「分かった。」
「良かったな、豊香」
 豊香は、俯いたまま頭を上下させたが、肩を小さく震わせていた。

2020.07.13
【十一】
「しんたろぉ」
 豊香の部屋に辿り着いたなり、晋太郎に抱き付いた。
「しんたろは、何回僕を捨てるんだ。もう、心臓がいくつあっても持たない。」
「それは、豊香のここと一緒か?」
 そう言うと、睾丸をギュッと握られた。
「あん」
 小さく呻いた。
「あ、しんたろの手…それだけでイキそうだ。」
「豊香、忘れないで居てくれて嬉しかった。」
「待って!もう、嫌だからね!もう離れていこうとしないで、記憶を消そうとしないで、お願いだから。その為にいっぱい勉強もしたし、我慢もした。しんたろに会いたかったから。」
 両手を晋太郎の首に巻き付け、豊香からキスをした。
「キスもセックスもずっと我慢した。この身体で、この淫乱に変えられた身体で…」
「豊香、俺と大仁も、実のところ似たような儀式があったんだ。男に…豊香に欲情する身体になるような。だから豊香が我慢していたのと同じくらい大仁も苦しんでいたと思う。」
 晋太郎にしがみ付いたまま、豊香は驚きを顔に表した。
「大仁…平気かな?」
「平気なわけ、無いだろ?お前にしか、欲情しないんだから。」
「ウソ…なら、僕が女の子にしか反応しなくなったら、二人ともずっと我慢し続けてたのか?」
「そう言うことになるな。」
「それ、酷くないか?どうにかならないのか?」
「豊香」
「ん?」
「自分から振っといてなんだが、俺は今、物凄く嫉妬している。豊香のその唇が、「ひ・ろ・と」と言う言葉の形を作る度に嫉妬している。二年の禁欲より辛い。…そう言うことだ。でも、明日になったら大仁のこと、一緒に考えよう?」
「あ」
 晋太郎の唇が、首筋を這う。
「んんっ」
 そのまま、噛み付かれた。
「あぁっ」
 その手順を身体が覚えている。
 晋太郎の腰辺りの布地をギュッと握りしめた。
 股間のモノがハッキリと判るように形を変えていく。
「ん」
「寝室、行く。もう、本当に我慢が出来ない。」
 晋太郎は豊香を両手で抱え上げ、ベッドに誘われた。
 シャツのボタンを、ゆっくりと外す、態と焦らすようにゆっくりと。
 焦らされた豊香は、一緒に晋太郎のシャツのボタンに手を掛けた。
 互いにシャツのボタンを外していく。
 肌が露わになった途端、豊香がしがみ付く。
「晋太郎、晋太郎だ。あんなに夢にみた晋太郎の、胸。」
「うん。豊香の肌理が細かい肌だ。」
 晋太郎が、豊香の腕からシャツを落とす。豊香が晋太郎の腕からシャツを落とす。
 再び身体を密着させる。
「どうしよう、これだけでイキそう。」
 耳元で晋太郎が笑む。
「さっきから早漏ですと言われてるんですけど。」
 耳を食む。
 すると、豊香が抵抗を示した。
「嫌だ。耳は嫌。あの日を思い出すから嫌。」
「ごめん、もう離さないから。」
「記憶もいじらないで。あの後凄く気持ち悪いから。」
「うん、誓う。今度こそ本当に離さない。離されてもまた必ず戻ってくる、飛んでくる。」
 もう一度耳を食む。耳朶を甘噛みする。
「んふ…擽ったい。」
 ふっと、耳穴に直接息を吹きかけられ、身体が浮くほど感じた。
「あぅっ」
 シャツに隠れる部分に、キスマークを付けられていく。
「あはっ」
 晋太郎が乳首の根元に噛み付いた。
「ううっ」
 今度は優しく舌で転がす。
 噛まれた部分がジンジンする。
「乳首ばっかり、ヤダ」
「注文の多い嫁だ」
「でも」
「はいはい」
 豊香が欲しいのはもっと大きな快楽だ。
「お強請り、してみて」
「え…あ…孔、弄って、」
「可愛い」
 対面で座ると豊香の頭を抱える。
「豊香、好きだよ」
 耳朶を食みながら後孔の入り口である襞を一つずつゆっくりと揉み解し始めた。
「して、ないんだよな?」
 肩の上でコクコクと頷く。
「じゃあ、時間を掛けてゆっくりと解していこうか」
「ひあっ」
「本当にしてなかったんだな、ここ、見事に窄まってる。」
 肩に頭を乗せて息を詰めている姿も愛おしい。
「うぐっ…ちょっと、気持ち悪いかも」
「止める?」
「止めない」
 即答に苦笑する。
「指が入りそうだ」
 ツプッと、指を一本飲み込んだ。
「あっ、んっ」
「少し腰を上げてくれる?」
「ん」
 豊香が従順だ。それ程までに晋太郎を恋い慕っていたと実感させられ、下半身に熱が集まる。
「二本目の指も飲み込んだよ」
「は、恥ずかしいから言わなくて良いから」
「照れてる豊香も可愛い」
 ぬぷぬぷと音を立てて豊香の孔を晋太郎の指が出入りする。
「しんたろぉ…お尻が、変だよぉ」
 言うと更にしがみ付いてくる。
「あ…あ…」
 切ない声が室内の障子に染み込んでいく。
「こっちも、俺のこと待ってるよね?」
 半ばまで立ち上がりねっとりとした蜜が口元で表面張力の如く盛り上がって零れる寸前だ。
 茎の部分を上下に扱かれ、蜜が溢れた。
「ま…って、両方…ヤダ…すご、感じちゃう」
「感じさせてるんだから問題はないんだけど」
「んっ、ヤダぁ」
「止める?」
 首をフルフルと左右に振りながら「ヤダぁ、止めちゃ、ヤなの」と、だだを捏ねる。
「豊香、可愛いよ」
 舌で乳首も転がすと全身をビクビクと震わせた。
「ふわぁ…んんっ」
 もう、豊香は晋太郎の指の動きしか追えていない。
「もぅ、挿入れてぇ…お願いだから、虐めないで…」
「虐めてなんかいないよ、俺も行為自体が久し振りだから、思い出しながらゆっくり、豊香を感じてるだけ。」
「お願い…」
「どの体位がいい?」
「正常位、しんたろの顔見ながら抱かれたい。」
「ホントにもう、」
 晋太郎は豊香を抱き上げ、そっと布団に寝かせた。
「豊香は可愛い」
 両脚を大きく広げてから膝を胸に届くまで折り曲げると、豊香の秘部が晋太郎の目の前に現れる。
 そこに目掛けて、晋太郎の肉筒を押し当てた。
「ここは、俺のモンだ!」
「あんっ」
 ずぶずぶと砲身が後孔に飲み込まれていく。
「んんっ」
 肉壁が晋太郎の砲身に密着して押し包む。
「すご、気持ちイイ…ああ」
 豊香は脚を晋太郎の腰に回し動けないように固定した。
「どうした?動けないよ?」
「少しだけ、中が、晋太郎の形を思い出すまで…」
「思い出さなくてもいい、今から俺の形に変えていく。」
 豊香は猛然と抽挿を開始した。
「あっ、あんっ、んんっ、もっ、やっ、」
「イヤ?止める?」
「やめちゃ、やなの」
 じゅぶ、ぐびゅと夜の静寂に響く水音。
「ひ…っ、イイぃ、これ、これが欲しかった」
 亀頭がゴリゴリと肉襞を引っ掻く度、豊香が仰け反る。
「ああ…んっ、気持ちイイ、いい」
 晋太郎に余裕がなくなってきたのか、煽るような言葉がなくなった。
 「くっ、ううっ」と、呻く晋太郎と「あっ、も、ダメ、イキそう、イクイクぅっ」と喚く豊香と、ぐぼっぐぼっと、豊香の孔から聞こえる水音が延々と続く。
「くっ」
と、呻くと豊香の四肢が痙攣し、晋太郎の肉棒を食い締める。
「あ、出るっ」
 留めの一突きで豊香の肉塊からもビュービューと白濁した精を吐き出し、晋太郎の白濁液は豊香の最奥をしとどに濡らした。
 二人してはぁはぁと息を切らしながら、顔を見合わせ「もう一回」と二年の空白を埋めるように抱き合った。

2020.07.14
【十二】
「え?」
「言っただろ?何れ不要になると。その時に適応する能力を伝授しているんだ。豊香みたいに万能じゃないから色々借りている状態だと思ってくれたら良い。」
 昨夜、豊香は大仁のことは明日と言われたので、早速相談した。
「俺達のことは気にしなくていいから、豊香は豊香が理想とする村を作り上げて欲しい。それが村の未来へと繋がる。」
「なあ、」
「ん?」
「晋太郎はいつから僕のことが好きなんだ?」
 少し、考え込んだ。
「いつ?分からないな。気付いたら好きだった。そうなると出会って直ぐかも。こいつ危なっかしいなぁって。で、この話が来て、豊香の側にいられるならやりたいと思った。」
「この話って、そう言えば昔から訓練とか言ってたよね?晋太郎は知っていたの?僕が御子だって。」
 晋太郎が口篭もる。
「そりゃぁ、悪かったと思う。でも、口止めされていたし、俺としては豊香の近くに居られるからラッキーとしか思っていないさ、口止めくらい大したことないと思っていた。まさか、儀式であんなことするとは直前まで知らなかったけどな。」
「いつ聞いた?」
 ドンっと、豊香は床に縫い止められ、キスを受け入れていた。
 まだ、晋太郎には自分に言えないことがあるのだと、理解した。
 理解したが知りたかった。
「誰に?」
「大仁の父さん。」
 そうか。そう言えば儀式の2日目の夜は大仁の家の寺だ。昔のだけど。
「この儀式はずっと大仁の寺で引き継いでいるのか。」
 晋太郎は答えないで、豊香と身体を繋いだ。
「んんっ、晋太郎…ずる、い…あ…」
 擦れる奥が気持ちイイ…と、豊香は心の中で呟く。
 豊香の内襞が肉棒を優しく包み、ざらざらとした感じが気持ちイイ…と、晋太郎は耳元で囁いた。
 豊香も、許されるならずっとこうして晋太郎と抱き合っていたかった。
 抱き合いたいってことは、僕たちは番と言うことで、つまりこれは豊聡耳皇子の意思と言うことなのか?と、快楽の中、豊香は思った。

「この村だけに施設を増やしていくのはどうかと思う。ここに災害がやって来たら全滅だ。あちこちに同規模の施設が必要じゃないか?その為には各地に人を派遣するか、知人を作って依頼するかだな、」
 着々と豊香の思い描く災害に強い施設作りが進んでいる。
 災害に備えながらも、災害時に避難場所としても使え、更にはその後の生活の糧としても機能する施設。
 その資金源となる起業も進んでいる。
 大仁は、実家に戻った。
 寺を継がなければならないからだ。
「そうか、僕の後に現れる御子の為に、寺の事業を引き継がなきゃいけないんだ。」
 だから、豊香とは番になれないのだ。
 豊香は、ホッとしたような寂しいような複雑な気持ちになった。
 ただ、相変わらず晋太郎は、大事な話になるとはぐらかすことが多い。それは豊香が豊聡耳皇子の意思に一歩も近付けていないと言われているようで、焦っていた。

「んっ」
 今夜も豊香は晋太郎と閨を共にしていた。
「だ…から…んっ、この部屋に…あんっ」
「それはまだ無理」
 一喝されてしまった。
「豊香がちゃんと結果を残せるようになったら、宮を出て、一緒に暮らすことも出来る。でも今はまだ、その段階じゃない。」
「うっ…ああっ、でもぉっ、」
 反論しようとするが、快感に飲まれてしまい続かない。
「これ以上はキャパオーバーか?」
「そんな…ああっ」
 弱いところばかり攻めるなよと思うが、そういう身体なのだと諦める。
「まだ、頑張れるよな?」
「ん、晋太郎が、いて、くれるなら。」
「いるよ、ずっと。」
 その夜も限界まで喘がされた。
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「あれ?思い出したけど、僕が産まれるからお腹の中に羊水代わりにって話、もう要らないよね?」
「要らないね、豊香は産まれたし、玉は戻したから。」
「なら、どうして晋太郎は、中出し?」
 途端に晋太郎が真っ赤な顔をしてキスをしてきた。
「ん」
「ヘンなとこ、鋭いな。」
「なん…」
「もう、お前とセックスしなくたっていいんだよ。でも…したいってだけ。」
「好き」
 豊香から、キスをした。
「俺も、好きだよ」
 豊香は、何度も何度も晋太郎の気持ちを確認しないと不安だった。
 またいつか、置いて行かれるのではないかと。

2020.07.15
【十三】
「豊香!久し振り。」
 大仁が宮にやって来た。
「滞りなく進んでいるようだな」
「うん、お陰様で。大仁…おめでとう。」
「あ、うん…お祝いありがとう。」
 大仁は、嫁を迎えた。
 いつか、豊香と性交した女性だ。それを豊香は知らない。
 残念ながら豊香の子供は授からなかったため、大仁が責任をとって嫁にしたのだ。
「結婚式しなかったんだね」
「俺が色々忙しくてな。あいつも大変だろう。」
「奥さん、なんて名前?」
「伽耶(かや)」
「可愛い名前だね。」
 散々あんな女呼ばわりしたこと、晋太郎に向かって女性には恥ずかしい場所を晒したことなど、すっかり忘れている。
「大仁が幸せになってくれたら、僕も嬉しい。」
「俺は、幸せだよ。」
「良かった。」
 大仁は豊香を抱き寄せ、しっかりと抱き締めた。
「豊香、俺は俺の役目を果たす。豊香は豊香の役目を務めてくれ。あまり、恋愛に現を抜かしていると、皇子から叱責を受けることとなる。それだけは肝に銘じてくれ、頼んだぞ。俺はお前を失いたくない。」
 ポンっと、背を叩いて身体を離した。
 お前を失いたくない?その言葉に豊香は恐怖を感じる。
 その時、初めて自分が皇子から選ばれた人間であることを思い出した。

 晋太郎のお陰で、豊香の父と兄は、豊香を監禁強姦したことの記憶を完全に失っていた。母も家に戻って安心して暮らしている。
 人々の暮らしは元に戻っていた。
 そんな時、国に災いが襲い始めた。

 最初は外国の出来事だった。
 大きな地震が発生し、多くの人間が生活の基礎を失った。
 豊香は村長に協力要請をし、村からとして食糧の支援を申し出た。
 翌年は国内に地震が、翌々年は水害、台風、地震と毎年災害が国内を襲った。
 その度に食糧の支援、全国に設置した避難所の提供、衣料品の提供、仕事の提供を行った。
 勿論何でも無償提供ではなく、事業展開へと繋げていく。
 豊香の活動は御子プロジェクトと密かに囁かれていた。
「毎年、どうしてこんなに災害が起こるんだ?」
 豊香が御子となって八年、26歳となった。
 宮として使用していた設備は、3年前に一部を豊香の住居に、一部を天然素材を使用した糸を製造する工場にした。
 豊香の住居はそんなに大きくはない。
 リビングがあり、会議室があり、キッチンがあり、二階が寝室二部屋とバスルーム。
 寝室は今、一部屋しか使っていない。
「晋太郎、このネクタイ変じゃないか?」
「大丈夫」
「ん」
 ネクタイを結んでやりながら、晋太郎は豊香にキスをした。
「今朝も、綺麗だ。」
 豊香は日に日に綺麗になっていく。それは毎晩晋太郎に愛されているからだ。女性ホルモンが多く分泌されるのかもしれない。
「晋太郎が他の女に狙われないか心配だ」
 だから晋太郎の仕事は裏方だ。
「来週、皇子の所へ出仕するんだっけ?」
「そう。スケジュール空けといて。」
「分かった」
 最近は月に一回、豊聡耳皇子の元へ二人で出向く。
 そこで皇子に指示を仰ぐ。
「先月」
 そう先月出仕した際、意外なことを言われた。
『大仁に下賜(かし)した巫女(みこ)だが、其方(そなた)の子を孕んだ、慈しむように。』
『私の子…ですか?なぜ?』
『覚えておらぬのか?余が選んで下賜した女子(おなご)が居(お)っただろう?其方は大仁に押し付けた。』
 豊香は晋太郎を見た。
 コクリと頷く。
『あ、でも、私が抱いたのは5年以上前で…』
『其方の精子だ、簡単には死なぬ。ま、袋鼠(ふくろねずみ(カンガルー))と思えば良い。2人目の女子の方だぞ、其方の子は。1人目の男の子は大仁の子じゃ。』
「皇子にああ言われたけど、大仁には言えない。」
「そうだな。」
「女の子で良かった、跡取りだからな。」
「そうだな。」
 晋太郎は心ここに非ずの返事だ。
「豊香」
「ん?」
「引き取りたいか?」
「なにを?」
「明日花(あすか)」
 明日花は皇子の言う豊香の子だ。
「いや。僕は仕事で手一杯だ、子供なんか要らない。それに、晋太郎が居てくれるから。」
「皇子に頼めば、豊香も産める。」
「は?」
「豊香が俺の子を産める。」
「何言って…晋太郎?」
「豊香と俺の子だぞ?会いたくないか?」
 そりゃ、会いたい…けど、僕に産めるのか?と、豊香は葛藤する。
「晋太郎…は、欲しいのか?」
「俺?俺は…考えたことない。けど、考えてみる。」
「なら、要らない。ハッキリ言って怖い。」
「怖い…そうだな。また豊香の呼吸が止まったりしたら、今度は蘇生方法が分からないから。」
 晋太郎の腕の中でなら、息が止まっても悔いはない、豊香は晋太郎には告げずにそう考えていた。
 毎日の仕事は豊香にとって楽しいことよりも最近は辛いことの方が多い。それを乗り越えられるのは晋太郎が居てくれるからだ。
 これ以上は持ちきれない。

 豊香は知らないが、何れ明日花は晋太郎の嫁として大仁が連れてくる。
 そうして御子を守る人間は代々受け継がれていく。
 晋太郎は胸が痛い。
 いつの日か、豊香が伽耶を抱いた日を思い出す。
 あの時の想いを、豊香に味わわせると思うと切なかった。
 ただひたすら、その日が来るのが遠い日であるよう、一回で男の子を授かるよう、祈った。

2020.07.16
【十四】
 災害が起こった地域の避難所から、報告があった。
「プライベートスペースが足りないか…」
「しかし、家族単位で個室というわけにもいかないからな。」
「晋太郎、晋太郎が避難所に行った際、僕と一緒に居るのに我慢できる?僕は出来ない。その辺りを配慮してやらないと。そんな時にするのかって聞かれるかもしれないけど、そんな非常事態だからこそ、子孫繁栄に人間は心が向く…僕たちは欲望だけだけどな。」
 自分に例えたら気付くこと、それを大事にしたいと豊香に言われ、再考を迫られた。
『個室は四畳半になります。キッチン、トイレ、風呂は共同。これでどうでしょうか?』
『それは僕じゃなくて避難所にいる人達に聞いてみたら?それと、』
 豊香の瞳が晋太郎を捉える。
「感染症の際、それでいいの?」
 晋太郎は両手で口元を押さえた。
「そう、ですね。今一度考え直します」
「晋太郎…キス、して。」
 豊香が晋太郎の胸に縋って顔を埋める。
「どうした?」
 豊香の顔を上げさせ、顎を捉える。上を向かせると豊香は目を閉じた。
「んっ」
 ちゅくちゅくと音をさせて口付けを交わす。
「僕は、皇子に見込まれるほどの能力はない。どうして選ばれたのだろう?」
 晋太郎は豊香の首筋を甘噛みする。
「痛っ」
「ここまで会社を大きく出来たのは、豊香の力だ。何を迷う?」
 今度は顎を囓る。
「大丈夫、優秀なスタッフが着いている。豊香はそこにいてくれるだけで良い。俺に、身を任せて、感じているだけで良い。」
 次に鼻を囓られた。
「俺に、溺れていろ。」
 瞼を舐められた。
「全身が性感帯に変えられた、豊香だから。」
 再び口付けを交わす。
「んっ、んんっ」
 耳朶を噛まれた。
「いやっ、そこ、やっぱり嫌なんだ。」
「言っただろ?俺は豊香を離さない。これは、マーキング。」
「でも、胸が痛くなるんだ。」
「大丈夫、例え豊聡耳皇子から指示されても、離さないから。」
「皇子は正嗣のことがあったから、そんなこと言わないよね?」
「そうだね」
 晋太郎は、豊香を抱き締めた。

 豊香は、晋太郎にも大仁にも内緒で聖徳太子について調べていた。
 事実として知られていることは少ない。
 それと「御子」は、どんな繋がりがあるのか?
 自分の運命は?自分の進むべき道は?
 調べれば調べるほど、不安が強くなる。

 豊聡耳皇子との対面の日に、豊香は自身の考えについて発言を始めた。
「豊聡耳皇子、今後このようなことは私を最後にして頂きたいのです。私のために何人もの人間が思うように人生を送れていません。」
 晋太郎が慌てて袖を引く。
「人間の一生なんて短い。なのに誰かのためになんて、間違っていると思う。今、私達が行っている事業については、従業員を募って実行していますが、晋太郎と大仁のように、先祖代々受け継いでいる人は解放してあげたいのです。」
 豊香は、全てについて皇子から説明を求めることにしたのだ。
「豊香、やっとそこに辿り着いたのだな。」
 そして、この壮大な計画について語り始めた。

2020.07.17
【十五】
 今、この時代の時点では、皇子は存命だが、当然豊香達の時代では皇子は亡くなられている。そしてその最期が謎に包まれていることも。
「私は、正嗣も可愛いいが、子供達も可愛いい。そして子供達の未来が明るいことを祈っている。」
 その時、豊香は気付いた、「聖徳太子」と言う名前は後の世の人が付けたと言うことを。
「私の生きている時代に、後世の人間がやって来たのは豊香、君たちが初めてだ。」
「つまり、皇子の計画が僕たちの時代に成功したと言うことですね?初めてタイムスリップ…時空間の移動に成功した。」
 皇子は大きく頷いた。
「そうだ。」
「…晋太郎、晋太郎は子供の頃から時空間の移動のやり方を教わってきたって、言ったよね?」
 その問いに、晋太郎は答えない。
「つまり、晋太郎は、僕より後の時代に生まれてるってことだよね?僕の時代はまだ新幹線に乗って少し時間を短縮する位のことを言っているからね。」
「残念ながら時空を移動する手段は私が計算して方法については確立していた。但し実際に成功させることが至難の業だったようだ。
 皇子の時代の十年前に旅立った皇子の長男である山背大兄皇子は、戻らなかった。
 毎年皇子の子供達を旅立たせていたが、去年最初に旅立った山背王からの返事を携えた晋太郎の父親がやって来た。
「そうか、タイムスリップだから、いつ戻ってくるか分からないんだ。」
「そうなのだ、何処の空間に辿り着くかまで、計算上は上手く行っていたのだが、成功していなかったのだ。その後、何度か子供らが改良し、晋太郎が遂に自由に操れるようになって戻ってきた。お陰で…」
 皇子の放ったタイムトラベラーたちは、先日全員戻ってきて、晋太郎から方法を伝授され、日本書紀に書かれている「滅亡したとされる日」に、未来へと旅立った。
「私も、妻を連れ合流する予定だ。この後は歴史の表舞台に出る予定がない。勿論、正嗣も連れて行く。」
 豊香が大きく項垂れる。
「なんだ、僕はどうでもいいんじゃんか。本当に必要なのは晋太郎じゃないか。」
 すると、皇子は大きく否定した。
「我々が庇護して貰うのは豊香が構築した仕組みだ。」
「え?」
「豊香が作り上げた飛鳥の都に移動する。」
 やっと、合点がいった。
 僕たちは、豊聡耳皇子が滅亡を防ぐためのシェルターに過ぎなかったんだ。
「皇子」
 今まで黙っていた晋太郎が、焦点の定まらない目で問う。
「豊香は、一度呼吸を止めています。玉に救われたのですが、あれは?」
「呪術と占術だ。あれで、晋太郎は信じただろう?」
「じゃあ、伽耶の子は?」
「大仁の子だ。」
「本当に?」
「ああ、安心しろ。豊香の子種ではない。」
「豊香」
 晋太郎が豊香を見た。
「うん」
「これからは豊香の近くで共に國を作ろうぞ」
 豊香は、少し戸惑ったが、何とかなるだろうと腹をくくった。

「だから、聖徳太子と膳部菩岐々美郎女は一日違いで亡くなったと言うことになっているのか。」
 刀自古郎女は蘇我氏の出自なので計画を伝えなかったのか。
 豊聡耳皇子が伝説となったのは死後100年を経てからだ。
 タイムスリップをして、幽霊騒動を起こし、歴史上の人物となった。
「でも、これからが大変だなあ。」
 豊香が溜息をつく。
「皇子たちの戸籍は大仁の父さんが操作してくれている。だから、普通に現代人として…っていうのが一番難しいんだけどな。」
「現代人教育が必要だもんね。」
「あ、それは山背王が既にやってくれているから大丈夫。」
「徳大寺を名乗るんだね。」
「うん。みんな、親戚。」
 晋太郎が笑う。
「僕たちのルーツと生活するってなんか不思議。でもさ、そんなにしてまで子孫を残したいのかな?よく分からない。…僕は、晋太郎と一緒に居られたら幸せだから。」
 晋太郎の腰に腕を回し、抱き付く。
「豊香、今日も可愛いよ。」
 ギュッと抱き締め返される。
 目を閉じて顔を上げると、そっと唇を塞がれた。

2020.07.18
【過去編終わり】