=好き=
 今年の新人は可愛くない。


「あ…」
 武が小さく叫んだ。
「ここ?」
 中を擦ってみる。
「やっ、あっ…」
 つくづく、感じやすい身体だ・・・とホクホクしてしまう。
「んーんーんんっ」
 鳴くのを懸命に堪えているのが色っぽい。
 しかし…耐えていた日々が嘘みたいだ、今では武が毎日ねだるように………


「何、考えてるんですか?顔がにやけていますけど。」
 今年の新人が配属になった。武と俺に一人ずつ、担当新人が着いた。はっきり言って面倒だ。
「安心しろ、四位のことじゃないから。」
「それはありがたいです。私はホモじゃないですから、おかま掘られても困ります。」
 う〜、むかつくっ。
「…武先輩、可哀想ですよね、ノーマルだったらしいじゃないですか?それを横山先輩が無理矢理脅
して彼女と別れさしたって、藤田が言ってました。」
 藤田は武の担当新人だ。
「日本語変だぞ。別れさしたじゃなくて別れさせただぞ。それからその情報は間違ってる。確かにノン
ケの武に告白したのは俺だけどあいつはフリーだったぞ。」

「武先輩くらい仕事も出来て優しくて女の子受けする顔してるのに横山先輩みたいにいい加減な人
に引っかかってしまうって言うことは判断力が欠けているんでしょうかね?」
 こいつ、喧嘩売っているのか?毎日毎日、こんな風に営業車で移動している時に限って絡んでくる

 最近、俺は後悔している。社内でカミングアウトしたのは部長が武を狙っていたからで、外野がど
うこう言うなんて考えていなった。実際、新人がくるまでは誰も人の性癖にとやかく言う奴はいなか
った。だから当然のように配属初日に俺は二人にも言っただけなんだ。
「藤田もそんな風に武に毎日言っているのかな?」
 武は絶対に愚痴は言わない。
「さぁ?私は先輩のように毎日同期同士でつるんでいませんから、彼のことは知りません。」
 とことんいやみな奴だ。
「けど、同期って大切だぞ。」
「性欲処理してくれるからですか?」
「馬鹿か、お前。」
「先輩に言われたくありません。」
 …勝浦と後藤は可愛い後輩だったな・・・。


「なにそれ?」
 さっきから武が転げまわって笑っている。
「四位君、由弘に関心を持って欲しいんだよ。愛情の裏返し・・・だね。」
 そう言うと首に腕を回し、
「でも、今更しゃしゃり出てきても渡さないけどね。」
 ん〜、本当に武は積極的になってしまった。
「尚敬、もしも、結婚したい女の子ができたら、言ってくれ。俺は潔く身を引くから。」
「うん、出来たらね。」
 簡単に肯定されてしまう。
 最近は絶対に武の掌の上で遊ばれている、そんな気がする。
「由弘も、好きな女の子が出来て、結婚したいって思ったら、僕のことは捨てて構わないからね。」
 武を、捨てる?
「何で?」
「結婚するっていわれて、じゃあ僕は愛人・・・なんていやだもん。僕は常に由弘の一番でいたいか
ら、二番になった時点で終わり。でもさ・・・」
 でも?俺は首を傾げた。
「でも、僕以外の男と、って言われたら逆上するかもしれない。心が狭いからね、僕は。」
「どうして・・・」
「女の子なら良いのかって?」
「うん。」
「決まってる・・・女性には勝ち目が無い。」
「なんで・・・」
 分かってる、子供を作れるからだろう?
「うちは・・・誰も俺に期待していないから大丈夫だ。俺も子供が欲しい何で思わないしさ。兄貴のとこ
ろに男の子が二人いるから大丈夫なんだ。」
 すると、武は寂しそうな笑顔を浮かべた。
「そんなことじゃないよ。」
 武の唇が俺の唇を捉えた。
「外で、こんなことしたい。」
 武の腕が俺の身体を抱きしめる。
「人前で、由弘を抱きしめたい・・・けど出来ない。」
「俺は、構わない。だから会社でもカミングアウトした。」
「そういえばどうしてうちの会社は同性愛者が多いんだろう・・・不思議だよ。」
 ・・・それは、口にしてはいけない疑問だ・・・。


「ふぅん・・・あぁっ・・・」
 昼間、想像したのと同じシチュエーションだ。腰を高く持ち上げ俺を受け入れ、顔は枕に埋めて恥ら
うように、それでも精一杯快感を唇の端に乗せる。
 何度も何度もギリギリまで抜いては深く突き入れる。
「人前で・・・こんなこと、しない・・・だろう?」
 かなり息が上がっている、俺もトシなのかな?
「・・・しても、いい・・・僕は・・・身も、心も・・・全て由弘のもの・・・」
 俺は、驚いてしまって思わず抜いてしまった。
「もっかい、言って。」
「由弘のもの・・・僕は由弘だけのもの・・・これでいいかい?」
 枕から顔を上げない。
「僕だって・・・不安なんだ。由弘が僕から心変わりして、他の男に行ってしまったら・・・結ばれるまで
はあんなに抱かれることを怖がっていたのに、今度はこの・・・この幸せを失う恐怖が強いんだ。」
 泣い・・・てる?
「馬鹿・・・尚敬、愛してる。絶対に離さない。例え尚敬が女の子と結婚したいといっても、他の男に抱
かれたいといっても、絶対に離さない。お前に選択の自由は無いんだ。俺だけにしとけ。」
「んんっ」
 再び、突き入れ、今度は俺が射精するまで抽挿を繰り返した。
「あぁっ、あぁっ、ああっ・・・出るぅっ・・・」
 武が身体をビクビクッと震わせ、射精した。俺はそれを両手で受け止め、武のイッたばかりの砲身
に塗り込める。
「駄目っ、駄目だよ、そ・・・んな、触れないで・・・ああんっ」
 可愛い、尚敬・・・。
「あっ、あ、あぁ・・・」
 ビクンビクンッ、身体が震える。神経がむき出しになっている部分を俺が触るから、だ。
「駄目・・・触らないで・・・もう・・・変になる」
「変になっていい、もっと乱れていいよ。」
「や・・・だ・・・」
 本当に、離せなくなったら俺はどうするんだろう・・・心の片隅でそんなことをふと考えたけど、無
視した。


「夕べ、武先輩とセックスしましたね?」
 なんなんだ、こいつ。
 今日も四位と二人で得意先回り。本当に二人っきりになるとこんな話題ばかり振ってくる。
「・・・お前、武に興味あるのか?」
 武は俺だって言ったけど、こうなると武の方じゃないかと疑ってしまう。
「興味・・・そうですね、男に抱かれて喜んでいる男・・・っていう意味で興味があります。何がいいん
でしょうか?私には理解できません。」
 ブチッ
 理性が、切れた。
「・・・そんなに知りたきゃ、教えてやるよ。」
 ハンドルを、切った。


 後悔、先に立たず・・・
 尚敬に、なんて言い訳するんだ・・・


「・・・知りたく、無いです。」
 路肩に車を停め、四位の両腕の動きを封じ、顔を寄せたときだった。
「僕のこと、思い出してくれない先輩の気持ちなんか、知りたくないです。」
 思い・・・出す?
「武先輩と同じ町内に住んでいたんです、子供の頃。憧れていて先輩みたいになりたいってずっと思
っていたのに、再会したらおかまになっていた。」
 ・・・尚敬、やっぱり世間はまだまだそんなに甘くないようだよ。
「武は何にも変ってない。
 性癖って人に話すことじゃないだろう?その当事者同士で知っていればいいんじゃないか?俺はお前
がどんなセックスするかなんて興味ないよ。あの人だって・・・」
俺は窓の外を歩く紳士を指さす。
「もしかしたら家ではマゾかもしれないぜ。」
 四位はびっくりした顔で俺を、見た。
「四位の中で、武が特別だったっていうのはわかった。だけど、武は特別じゃないんだ、ただの人間。」
 なんで俺はこんなところで性癖の話をしているんだ?
「配属になってから武と話したか?」
「いえ。」
「今度、飲みに行こうな。多分、四位の思っていた、憧れていた武だから。」
「でも・・・」
「なんでもいいや、とりあえず仕事に行くぞ。」
 納得したのかしないのか、それ以降四位は武の話をしなかった。


 その日の夜。
「町内に・・・四位?ん〜覚えていないなぁ・・・」
 武は真剣に悩んでいる。
「泣き虫でさ、・・・」
 ん?
「いつも同級生に苛められては泣いている女の子はいたけどなぁ・・・」
 女の子?
「でも、名前は知らない。言わなかったからね、彼女。」


「・・・だってさ。」
 翌日の営業車の中。
「女の子・・・」
 それから暫く、四位は立ち直れなかったようだったが、
「いつも、変身ヒーローごっこをするときに、主役ではなくて準主役を選ぶんです。・・・私は一番年下
でしたから、女の子の役ばかり回ってきていました。だから女の子だと思われていたんですね。」
と、当時の話を始めた。
「泣くと、先輩が心配してくれるからいつも泣いていました。」
「お前、初恋だったんじゃないか?構って欲しいなんて、絶対にそうだよ。」
 すると真っ赤な顔をして否定した。
「先輩みたいに、優しい人になりたかったんです。五歳で引越ししてしまったので先輩の記憶には残ら
なかったかも知れないけど、私にとって先輩は憧れであり目標であったのです。・・・なのにどうして
横山先輩と・・・。」
 ・・・とっても恨みがましく見詰められた・・・睨まれた、と言うのが正しいのだろう。
「俺さ、別に武を手篭めにしているわけでも強姦したわけでもないんだぜ。これでも結構色々苦労した
んだからさ。お互いに一杯考えて一杯悩んで、それで出した結果が二人でいたいってことなんだけれ
ども・・・分からないかなぁ?」
 四位は、俺から目を逸らし車窓から外の風景を見詰めていた。
「ただの、嫉妬です。」
「え?」
「兄を・・・兄が恋人を連れてきたらムッとしませんか?それと一緒です。」
 ・・・俺はちっともそんなこと思わなかったぞ。兄貴が彼女連れてきたとき、これで俺に干渉しなくなる
と思って嬉しかったけどな。
「今度、飲みに行きましょう。藤田も誘ってみます。」
 横目でちらっとしか見えなかったけど、微笑んでいたように、見えた。