= 太い道、細い道 =改訂版…というか間違いを直しただけです
 ついに来てしまった。

「武、ちょっといいか?」
 岡部さんが呼んだのは尚敬、俺じゃない。
 二人は小会議室に消え、五分もしないうちに戻ってきた。
 尚敬の顔は真っ赤になっていて、瞳は泣き出しそうにうるんでいた。


「んんっ…あんっ、駄目…」
 夜、俺の部屋で尚敬の弱い所ばかり攻めながら、誘導尋問。
「駄目っんっ…あぁっ、言えないっ」
「誰にも言わないよ?」
 自分でも、俺ほど鈍くさくて仕事は出来ない上に世話を掛ける奴もいないだろう…それは充分
判っている、だけど…
「離れるなら仕事を辞めてくれ、俺が養うから。」
「ふざけんなっ」
 性交中にプロポーズはまずかったらしい、怒らせてしまった。
「言っておくけど、僕は誰かに養ってなんか欲しくない。例え足腰が立たなくなっても自分の食い
扶持は自分で稼ぐ。
 お前、部長に言われたこと、知っているんだろう?」
 あんなに激怒されプロポーズも否定されたのに、俺はちっとも硬度を失っておらず、そのままそ
の場に留まっているので、尚敬はかえるが潰されたような姿勢で困惑している。
「なにも?だから尚敬に聞いているんじゃないか。」
 再び動くと尚敬は素直に反応し、二人の間で小さく蹲っていた尚敬自身もにょっきりと首をもた
げた。
「あぁ…んっ…んっ…だ…め…」
 再び火が点いた身体は快楽をむさぼる。


「期限付きレンタル?」
 高人、あなたは随分酷いことをしてくれる。
 どうして尚敬をわざわざ九州支部長崎営業部になんか半年も貸し出す?誰だっていいじゃない
か…いや、いないな。
「部長、開口一番に『新婚らしいから心苦しいが』って言ったんだけどね。」
 裸の胸に頭を抱き込まれる。
「半年…長いな…」


「駄目だ」
「まだ何も言ってません。」
 朝、会社のエントランスで高人―岡部部長に会っていきなり投げつけられた言葉だ。
「私には私の任務があります。だから何もいいません。」
「聞いたな?」
 内心、まずいかな?とも思ったが…
「朝一で部長に呼び出され、困った顔して会議室から出てきた…、転勤の話ですよね?」
 高人はうそがつけない。結婚生活はうまくいっているのだろうか?
「君が…、」
 言い掛けて俯く。
「なんでもない、兎に角今回行くのは武と勝浦だ。」
「勝浦も一緒なんですか?」
 それは酷い―あいつら不器用だから…やっと恋人になれたところなのに。
「別にわざとそうしているわけじゃない、前回の成績順だ」
「それなら私の方が上です!」
「…トップを手放してどうする?自分で任務がどーのこーの言ったくせに。」
 事業所の扉に手を掛ける。
「一晩くらい、空けられないかな?」
 高人?
 俺の返事をまたず、部長は所内へ滑り込むとみんなに明るく朝の挨拶を送った。
あなたは何を考えている?


「いやや」
 腕の中で駄々っ子の様に泣きじゃくる。
「雅治は平気なんか?半年なんて長い間離れて耐えられるんか?」
「そんなこと判らない。テルとこんな風になって、離れたことないじゃないか。だから耐えられないか
も知れないし、耐えられるかも知れない。」
 テルは僕の胸倉を掴んでいた手を首にまわすと、深く唇を重ねた。
「俺には無理や」
「じゃあ、どうしろと言うんだよ。ここで拒否したら僕なんて一生出世できなくなってしまう。それでい
いのか?僕が出世できなくっていいのか?」
「俺より、出世が大事なんか?」
「違う。テルと付き合っているから、仕事が中途半端なんて思われたくないんだ。」
「俺にはわからへん、雅治が考えていること、なんもわからへん。」
 言うと立ち上がってそのまま部屋を飛び出してしまった。
 いやだ、こんな風に喧嘩したまま長い間離れるのは嫌だ。
 慌てて玄関ドアを開ける。
「テ…ル?」
 ドアの直ぐ外に立っていたのは本人。
「俺はあほや、飛び出したけど未練だらけや。雅治のこと、愛しとう。」
 両腕で抱き締める。
「僕も、…愛してる。だからテルと対等な男になりたい。判ってくれるか?」
 腕の中で…と言っても確実に僕より背の高いテルを抱き留め、近所の目を気にして部屋に入る。
「抱いてくれへんか?」
 再び胸倉を掴まれ、端から見たら脅迫されているような形だ。
「雅治が忘れられへんくらい、抱いてぇや。」
 …テルとセックスしたのは勢いで一回だけだ。自信がない。
 とりあえず、キスをした。あとは成り行きだ。



《今夜》
とだけ、メールを入れた。
《21時、Gホテル》
と返ってきた。
 俺は、高人とセックス、出来るか?
 そうしたら、武は行かなくていいのか?
「本当に、来たな。」
「新婚に言われたくないです。」
「お互い様だろう?」
 高人はさりげなく俺の肩を抱き、エレベーターホールへ向かった。
 すでにチェックインを済ませていたらしい。
 エレベーターのドアが閉まると
「おまえは悪魔だ」
 そう言って俺の頭を両手で固定すると噛み付かれそうな勢いでキスされた。
「俺はあなたに対してはあの時以来何もしていません」
「だから悪魔だって言うんだよ…武と二人で幸せそうに毎日ニヤけてて…」
「こうして後藤も呼び出すんですか?で、好きなようにもてあそぶんですか?」
 俺は内心、苛立っていた。高人もただの人。権力を傘に着てあぐらをかくのか?
「何を言いたいのかわからないのだが…ま、どうでもいい。
 もうすぐ嶺南が来る。三人で食事をしよう」
「嫌です!あなたは俺をなんだと思っているんですか?ただの、心の無い人形だと?」
「…私のことを、愛していたとでも?そんなことを言うのか?だったら今、お前がしていることだって
同じだ、わからないのか?」
 俺は高人の体を抱き締めた。…小さく、なった?
「そんなつもりはないんです。俺が尚た…武のことを好きだってあなたは知っていたからいいと思
っていた。つらい、ですか?これであきらめようって思えないですか?」
 高人の身体が離れた。
「一度があると二度もあるかと期待していた。」
 床に、小さなシミが出来た。
「嶺南はこない、嘘だよ。私は君を試したんだ。」
「あのときは、本気でした。武が手に入らないとわかっていたのに手放したんです、あなたのために」
「私のために?」
 そう、真面目で、自分の気持ちにも気付かないような堅物の高人に火をつけたのは自分だ。高
人に誘わせるように仕組んだのは自分だ。だって…寂しかったから。
「俺は…あなたなら遊びの恋も付き合ってくれると…計算違いをしてしまいました。いつまでたっても
セックスしてくれない、いつも家でゴロゴロしているだけ…駄目亭主みたいでしたよね。」
「…今も同じだから駄目亭主かもしれない。」
「でもセックス、するでしょう?俺もしたかった。一杯、高人とセックスしたかった。入れなくていいんで
す、お互いの身体を触れ合ったりだけでも、何でもよかった、セックスがしたかった。だけど実際に
は無かった…。友達が欲しかったんじゃない、恋愛がしたかった。あなたは恋人だったけど、愛しあ
うことは出来なかった…。」
 高人は黙って俯いている。
「俺を、武から救ってくれはしなかった…」
「救…う?」
 思わず、右手が動きそうになるのをグッと堪えた。
「あんたの愛で満たされたかったんだよっ」
 奥歯を噛み締め、涙がこぼれそうになるのをじっと我慢した。そう、愛してくれれば、それだけで
俺は簡単に高人に傾いていたんだ。たった一度でいい、抱きしめて、キスして、俺を素っ裸にして
くれたら、それだけで良かった。
「けど…二度目を期待するなら、抱かれても良い。但し、武を返してくれ。俺から引き離さないでく
れ。」
「残念だが…武と後藤は長崎へ行く。ついでに私もな。」
 高人は部屋のキーを手にした。
「わかった。」
 それだけ言い残して。


「はぁ…っ…」
 余韻の残るため息のような声をたった一回、イク瞬間だけテルの唇から聞いた。それ以外はずっ
と唇を噛んで堪えていた。
 ベッドに横たわったままの僕の上に、テルが躊躇わずに跨ってきた。自分でローションを手に取る
とベタベタと塗りつけ、一気に奥まで差し入れた。
「テル、駄目だよ…」
 口ではそう言いながらも、気持ちは期待していた。いつでも躊躇ってしまうのはまだモラルを気に
しているから。
 拒絶の言葉を吐いたにも関わらず、僕の腰は絶えず動き続けテルを追い詰める。
 テルのしっとりと汗をかいた掌は、僕の胸を圧迫する。
 今夜は、なかなかイケない、どうしてだろう?
 テルが苦しそうに眉根を寄せた。僕はぎゅうぎゅうと締め付けられ千切れそうになる。
「あっ、テル、駄目、そんなに締め付けたらイッちゃうよ」
 今までぎゅっと瞑っていた目をほんの少しだけ開けて、僕の表情を盗み見る。満足げに唇の端が
動いたが、直ぐにもとに戻る。
―スパンッ―
 何か、頭の中で音がした。
 瞬間、腹に温かい物が触れた。
 僕の下半身も痙攣していた。
―ピタン、ピタン―
と、腹に当たっているのはテルのペニス。
「あかん、俺はカッチャンがいなかったら、生きていかれん。」
「向こう行くまで、毎日セックスしよう?帰ってきても毎日セックスしよう?」
 そう、テルが嬉しいなら僕も嬉しい。テルが気持ちいいなら僕も気持ちいい。テルが愛してくれるか
ら…は違う、絶対に違う〜。


「え?」
 武さんがびっくりしたように僕を見た。
「本当に?」
「はい。」
「横山が聞いたら、また揉めるよなぁ…」
 何でだろう?
 昼、会社の近くの定食屋で、久し振りに4人で飯を食った。
「何々?どうしたの?」
「僕がタチだって言ったら、武さんが…」
「え?」
 …同じ反応…
「あほぉ」
 テルまで…
 なんで〜?