= 乱 =
 ボクと由弘さんが初めてセックスした日は雨が降っていた。

「あれ?雨かな?」
 ボクに馬のりのまま、耳を澄ます。
「階段で濡れるの嫌だな。よし、今夜は四位のとこに泊まるからな。」
 そう言うとズボンを脱ぎ始めた。
「やらしてくれるんだろ?」
 ボクは唖然とするしかなかった。
「男と寝たこと、あるのか?」
 小さく横に首を振る。
「ゴムは?」
 縦に首を振る。
「ハンドクリームか、ベビーオイルはあるか?」
 肯定の意思表示をする。
「よし、なら服脱いで裸になれよ。言っておくけど今夜の俺はただの性欲処理だからな。」
 それでもいい、ボクは真面目にそう思った。

「四位、この提案書だけど…」
 背後から由弘さんが呼び止めた。
「俺、会社辞めるからさ。」
「な…」
「まだ、誰にも言うなよ。」
 一昨日、尚ちゃんと二人で何を話したのだろう?
「でさ、競合するのがさ…って、聞いてる?」
 由弘さんに肩を叩かれ初めて気付く。
「色々、全部含めて埋め合わせはするから。」
「だったら、そばにいてください。もう少しそばにいて指導してください。」
 まだ身体が貴方の温もりを覚えている、唇が弾力を覚えている、指から伝わってくる熱い情
熱も覚えているんだ。
「あの時、本気にさせてみろなんて挑発したのは失敗だったな…」
「先輩?」
「正直、かなりつらい。自分でも節操なしだと思う。」
「今夜、行ってもいいですか?」
 しかし、由弘さんの決意は固かった。
「部屋では、会わない。外ならいいよ。」
 なぜだろう、ボクは涙が出るほど嬉しかった。
「ヨコ、新人泣かすなよな。」
 全く気付いていない田中先輩がボクの顔を見て言った。
「違うんです、私が勝手に…」
「四位、軟らかくなったな」
 しみじみと言われた。
「そうですか?特に変わってはいないとおもいますが」
「表情も口調も優しくなった。ヨコはいいシニアだろう?」
「はい」
 本当にいい人だから、どうしようもなく惹かれた。


「なんか、気持ち悪い」
「止める?」
「やだっ、先輩が欲しい」
 由弘さんは苦笑した。
「後悔するから。他の人にしとけばよかったって、後悔する。」
「やだ…先輩に最初に抱かれたい」
 二人ともすっ裸で抱き合っていた。


「すぐ、ではないけど。遠くない未来、武と二人で仕事を始めようと思う。だから会社は辞め
る。」
 由弘さんは遠くを見ていた。遠く、長崎だろうか?
「結局、四位をもてあそんで捨てたのは事実だ。償いはする。」
「どうして?由弘さんとボクは恋愛をして終わった。それだけです。ボクには充実した時間で
した。」


「や、あっ、出るっ…」
 ボクはびくん、びくんと脈打つ自分のペニスを見つめた。
「由弘さんに突かれてこんなに出た」
「やらしいな、その言い方。」
 ボクだって恥ずかしい。だけど尚ちゃんの性格なら絶対に言わない。ボクは尚ちゃんとは違
わなければいけないと、自分に言い聞かせていた。
「好きだ。毎日セックスしよう。」
 ボクを好きなの?セックスを好きなの?
 でも結局ボクには聞くことが出来なかった。


「まだ、近くにいてもいいのか?嫌なら上に掛け合って転勤願いを出す。」
「いいえ。貴方にはボクが立ち直って新しい恋をするまで見届ける義務があります。ボクを幸
せに出来なかったんですから。」
 居酒屋のカウンターに並んで座っていたのだが、不意に片腕で抱き寄せられ、空いている手
で頭をぐしゃぐしゃになでられた。
「わかった、見届けてやるよ。」

 その約束は、簡単に終わってしまったけれど…


「い、いやだっ、放して下さい」
 スーツのズボンの上から股間を撫でられてボクは戸惑う。
「同期の間で君はゲイだという噂じゃないか。」
 抱き寄せられた。
「ちょ、困ります、専務」
「噂を流したのはオレだけどね。」
 本社から三か月間、短気集中開発営業プロジェクトのためやってきたのはボクが最も苦手
な福永専務。入社当初から触りまくるセクハラ親父…ならいいのだが社長の一人息子でまだ
30歳になったばかりだが、本当にやり手の人で皆が尊敬している人だ。
「同じ匂いがしたんだ。」
 あぁ、横山先輩じゃなくて良かった。あの人なら絶対に殴っている。
「専務、皆見ています。変ですよ。」
 柴田課長代理と田中先輩はなにがあったのか分からない表情、横山先輩は怒ったような顔
、後藤先輩はそっぽ向いていた。
「だったらホテルへ行く。」
 そう言うと腕を掴み立ち上がった。


「あぁっ…んぁ…」
 どうしてこんなことしているんだろう?
「気持ち、良いのか?」
 無言で首を縦に振る。
「いやあ…」
「えらく感度がいいな」
 アナルを充分にほぐされ、あとは貫かれるだけだった。
「あっ、よし…」
 動きが止まる
「誰だ?誰がお前のバージンを奪った?」
 瞳の色が変わった。
「畜生…」
 裸のまま、福永専務は風呂場に消えた。
 水音が響いている。


「なおちゃんとも、一緒に風呂入るんですか?」
 情事のあと、たった一度だけボクは禁断の名を口にした。
「武のこと、聞いてどうする?傷つけたくないんだ。」
 それはボクのこと?なおちゃんのこと?
「恋愛中、二人以外の名は出さないこと」


「専務…」
 彼の身体からは冷気が漂っていた。
「本当に、ゲイだった…とか言わないよな?」
「だったらどうします?」
「結婚、してくれ!一目惚れなんだ」
 は?
「まさか、出会う前か?」
「専務、話が見えません。私が誰と恋愛関係になろうと関係無いじゃないですか?プライベ
ートなんですから。」
「そう、だよ…プライベートなんだよ。勝美、オレは君が好きなんだ。遊びじゃない、真面目に
、愛し合いたい。だから今夜はこんなこと、強引に決行した。」
 さっきまでの威丈高かな態度は影を潜め借りてきた猫状態だ。
「真剣に、考えてくれ。」
「…レイプされそうになって、なんで簡単に許せますか?」
 その言葉に弾けるように反応した。
「勝美には、そう感じたのかな?」
「はい。確かに私には男性の恋人がいました。セックスもしました。彼は…」


「ほら、入るぞ。」
 両手でボクの脚を頭の上まで折り曲げアナルは目の前にあった。そこにコンドームを着け
た由弘さんのペニスがゆっくりと、埋め込まれていく。ボクのアナルはピクピクしながらその
行為を嬉しそうに受け入れている。
「あぁぁっー」
 突然、ボクは喉の奥から込み上げた音を吐き出した。
「ポイント、あっただろ?」
 何度も突かれないうちにボクは達した。


「彼は優しかった。」
 しかし、目から涙が溢れ止まらなかった。
「優しくする、だから考えて欲しい。」
 ボクは考えた。専務と結婚したら末は社長婦人?
「身体の相性が良くないと、考えられません、巧一さん。」