= 週刊誌 =
【大手企業の若き経営陣のプライベート】
 なんとも期待を持たせる見出しだ。
 経済誌としては名の通った一流誌。そこにこんなことを書かせた張本人は…
「由弘さんだ…」
 ムカツク。


 二週間前に取材を受けたから、当然自分のことが掲載されていると信じていた。
 それがなんだ?俺はクレソンか?パセリか?
「仕方ないよ、由弘さんかっこいいし優しい…」
 思わず俺は恋人の顔をにらみつけた。
 今年の役員会で正式に決まったのだが満場一致で横山と武の取締役就任が決まった。
 新会社を作りそこで新規事業をする。その為に二人を使った。
 …と、俺は聞いていた。なのになんでだよ。
「親父、横山のこと凄く気に入ってるんだ。」
 はぁーっ
 無意識に大きくため息をついていた。気に入られたきっかけなんて言えない。
「前から気になっていたんだけどさ、功一と由弘さんって何かあった?」
 まずいっ、一番聞かれたくないことだ。
「同期だし、配属先一緒だったし、よく家に遊びに来ていたしな。」
 そうなんだ―特に疑った様子もなく、勝美は頷いた。
 配属先が同じだったのは頼んだからだ。俺が一方的に惚れた相手だった。由弘が同様に武に
惚れていたのも知っていた。だから引き離した。子供みたいな事をした。
「でも…由弘さんはずっと武さんに片思いしていたんだし、思い過ごしだよね?」
 何を思い過ごしたんだ?聞きたいけど聞けない。
「動揺してる。本当の事を言いなさい。」
 はめられた…
「たいしたことはない、俺が…」
「由弘さん、好きだったんだ、違う?」
「…違わない」
 俺は観念した。昔から一目惚れしやすくて、由弘も勝美もそうだったこと、由弘には振り向いて
もらえなかったけど、恋愛のことを話せる唯一の友人になったことを話した。
「僕たち、二人とも趣味が一緒だったんだ。」
 でもさ、お前は思いを遂げたじゃないか。俺は不完全どころか火種の段階で消されたよ。
「由弘さんに感謝しなきゃ。二人とも振られたから僕は功一に巡り会えた。」
 こいつ、なんて可愛いことを言うんだ。
 思わず抱き締めていた。
「愛してる、勝美。」
 瞳を閉じ、口づけを待つ。
 その戸惑う表情も可愛い。
 お蔭で記事のことすっかり忘れていたよ。


「おい、何だよあれ。」
『何が?』
 なんだよ、なんで不機嫌なんだ?
「雑誌の…」
『功一までその話か?参ったよ、朝からその件で電話にFAX、メールに訪問者と後を絶たないん
だ。仕事にならない。』
「お前の口から仕事なんて台詞が聞けるとはね。」
『ブン殴るぞ。』
 勝美、ごめん。本当はまだ好きだ。好きな気持ちは小さくなったけど、声だけで身体が変化する。
 勝美を愛している。だけど唯一忘れられない男なんだ…


 同期と言っても、俺は試験を受けていない。初めから親父の秘書に連れられて帝王学を学ぶは
ずだった。それが一転、一般入社と同様に営業所に配属され、社員教育を受けたのは俺が入社
式で横山に一目惚れ―正確には二度目惚れだが―したからだ。
 第一印象は鼻につく奴だった。堂々と立ち、まっすぐ前を見ていた。その態度が憎らしいほど綺
麗だった。二度目は新入社員全員の決意表明。横山が何故か俺を見た。だから視線が交差した
。かなり長い時間見つめ合う形になったが、後日彼は俺の背後にいた進行係を探していたらしい。
 その時の瞳が忘れられない。


 彼らは明日から研修合宿に入る。俺も強引にメンバーに入った。
 親父はそれを俺のやる気と取ったらしい。事実この研修のお蔭で様々なノウハウを会得できた。
「横山、お前彼女いるの?」
 夜、一つ部屋に集まるとそんな話ばかり。
「いないよ。」
 そう言って微笑んだ笑顔は泣き出しそうなほど寂しくて悲しかった。
 しかし。俺は見た。横山の視線の先は武に繋がっている。
 こいつはゲイだ。間違いない。
 再び親父の力を使って配属先を決めた。
 なのに…。横山はこともあろうか、岡部さんと同棲しはじめた。
「なんで岡部さんなんだよ。」
「好きだから」
「違うだろ?」
「違わない。あの人がきっと俺を救ってくれる。」
 そんなに辛いのか?
 二人が別れた後、俺は告白した。
「俺が救ってやるよ。」
「ごめん。福永じゃないんだ。」
 痛かった。けど横山は武との恋に生きる決意をしたらしい。


「由弘さんのセックスするときの癖、週刊誌に売れるかな?」
 勝美に悪気はない、こいつはこいつの方法で横山と寝たんだから。それにもともと肉体関係が
ないから、普通に友人へと戻れた。
「もしかして、今流行りの純愛?やだな、勝てないよ。」
 勝美が恨めしそうに見上げた。
「好き」
「愛してる」
 互いに横山は過去の人として思い出に変えた。
 今は君しか見えない。