= 近畿きっず =
「あかん…もう、イッても…」

 その晩、俺はしつこいほど雅治を求めた。
 明日の仕事に差し支えると言って抵抗した雅治に、あと一回だけと言いつつ確実に五回はした。
「何かあったか?」
 大阪から外には出られないと思っていた。でも雅治と一緒なら平気だと思った。
「ごめん、頼りなくて。」
「ちゃうねん。大阪がいいゆうてるんじゃ、ないねん。ただなんとのう、馴染めてないんちゃうかな、
思うたんや。おばちゃんゆうたら怒られるやろ?がきゆうてもあかん。信号待ちもイライラすんね
ん。」
 すると雅治は大爆笑した。
「馬鹿だなぁ。生まれ育った場所をちょっと離れたからってそんなに慌てなくていいって。まず、自
分の出身を明かせば大抵のおばちゃんは納得する。みんな関西人はこんな感じっていう固定観
念があるから逆に得だとおもうけど。」
 違うんだ。こっちにいる雅治は水を得た魚だから生き生きしていてまぶしいんだ。
「輝基、愛してる。」
 雅治はそう言って抱き寄せてくれる。
「こっちきて、自覚した。お前以上はありえない。」
 俺の不安はお前の一言で吹き飛ぶ。
「だからさ…今夜はもう寝よう」
 言うが早いか、雅治は背を向けて寝息を立てた。
 前言撤回。


「あったり前だろ?やりまくり」
 恋人に何度も求められたらどう思うか、一番ふさわしくない人に聞いてしまった。
「求められる理由は二つ。愛されているかヤリたいだけか。」
「横山さんはどっちなんですか?」
 腕組みをして暫く考える。
「愛してる。だからヤリたい。」
「あんときはどっちだったんですか?」
「…福永くんに聞かれたくないから言わない。」
 ヤリたかっただけか。
「けどさ、好意がなければしない。嫌いな奴と寝たってムカつくだけじゃないか?」
 しまった、論点がずれてしまった。
「大丈夫だよ、かっちゃんは分かってる。」
 何を?
 こっちにはさっぱりだ。
「俺さ、テルの方がカツに積極的にアプローチしてリードしているのかと思ってた。」
 横山さんは不思議そうな瞳で問いかけた。
「アプローチはこっちなんですけど、あっちに関しては全くの未経験やったし、」
 その先が言い難くて言葉を切ると「カツに抱かれたいと思った?」
「はい。」
 肯定した。
「意外とテルは尽くすタイプなんだ。」
 優しく、笑ってくれて安心した。


「んっ、んんっぅ…」
 今夜は珍しく雅治が積極的に、求めてきた。
「そんな、締めつけんなよ。イッちゃうじゃないか。」
 身体を繋げているのに、何か遠く感じる。
「先輩は止めろってテルが言ったんじゃないか!昼間何話してた?」
「ちょ、待て…んんっ」
 言いながら攻撃的な腰使いは変わらない。
「先輩とやらしい話、してただろ?」
 必死で否定の言葉を吐こうと努力するが喘ぎになってしまうので、首を左右に振った。
「テルとやらしいことするのは、僕だけだからな。」
 深く、腰を進めてそのまま止めた。
「ここは、僕のだからな。」
 もしかして、嫉妬してくれた?
「まさ…はるっ、」
 腕を背中に回す。
「捕まえた」
「あほっ、とっくの昔に捕まったよ。早く東京の水に慣れてくれよ。僕の、故郷だから。」
 あ、そうか。
「あかん。雅治の生まれ育ったとこゆうたら、横須賀やないか。ちっとも東京じゃあらへん。それ
に…ここも東京じゃない、川崎だから。」
「神奈川も東京も同じなの!こっちはテルの第二の故郷。一生、付きまとってやるって決めたん
だから、覚悟しろよな。」
 僕は首を振る。
「ちゃうよ。故郷はいっこしかあらへん。雅治の隣や。」
 見る間にトマトの様に体中真っ赤にした僕の恋人は「あほ」とだけのたまわった。
 あほはいやや、ゆうてんのになぁ。