= 勝負服 =
「すごく褒めていただいたようで。心苦しいです。」
 少し嫌味でも言っておこう。
「武士沢だろ?本当だから。お前も武も華やかに生きているって感じる。」
 何考えてるんだ?福永は。
「横山は男にモテるし武は女にモテる。四位はすぐ男に惚れるし、なんか嫌になってきた。」
「痴話喧嘩かよ。四位は福永に甘えているんだって。気付けよ。」
「甘えているのはこっちのような気がする。横山への思いを強引に曲げて自分に向かせたから、だから弊
害が生じるんだ。兄貴の嫁さん、決まったか?」
 …それか。
 福永が北海道にいる間に、牛の世話ができる女性で千葉まで来てくれる人を探してもらったら、四位が
山ほど写真を送ってよこした。
「横山の頼みなら何でも聞いてやりたいらしい。」
「ちょっと待った。俺は福永の恋に邪魔をする気はない。四位のことはちゃんと清算したんだ、本当だ。あい
つに好きな人が出来るのをちゃんと見届けろと言われて、お前とそういうことになったと幸せそうに言われた
よ。あまり心配しすぎるな。」
「横山は、心配にならないのか?武が他に好きな人が出来たりすること。あいつ、ノンケだったんだろ?」
「心配はしていない。だって言ってあるから。好きな人が出来たら乗り換えてくれって。」
福永は呼吸するのを忘れるほど驚き、思いきりむせた。
「初めから、叶わないと思っていたから、今の時間は夢なんだ。現実だと受け入れたら失ったときに辛いから
さ。」
 キザだな、俺。と思っていたら、
「それじゃ、武は夢の中で愛され続けるんだ。だから浮気するんだ。」と、かなりの勢いで怒って行ってしまっ
た。
 そんなんじゃ、ないのにな。


「…」
 キスしただけで、武の腰が揺れる。
「こっちに、欲しい?」
 下着に手を突っ込み、花びらを開く。
「ん…あっ、欲しい。」
 素直に言うようになった。なんて可愛いんだ。
「由弘の、したい。」
 俺のペニスを下着から引きずり出すと、大きく口を開き、思いきり頬張る。
「んっ」
 ぴちゃぴちゃと濡れた音が響く。
 夢なんかじゃないことくらい、わかっている。
 上目使いで俺を見上げた尚敬の上気した頬。
「愛してる」
 ふと、口をつく台詞。嘘じゃない、尚敬を愛している。今は尚敬が俺のそばから離れて行くことなんか考えも
していない。
 四位に、会おう。
「由弘、四位君のこと考えてない?」
「え?」
「福永君に渡さなければ良かった?彼、由弘には素直だもんね。」
 尚敬が唯一嫉妬する相手。
「福永がさ、すごく揺れているんだ。不安定であのままじゃ、仕事でヘマしそうだ。社長の信用を落とすわけ
には行かないだろう。」
 柔らかい髪をなでながら説明した。
「言い訳なんか、いらない。会いたければ会えば良い。セックスしたければ、してきたらいい。それで由弘が
納得するのなら、僕は止めない。それに…」
 尚敬は腕を俺の首に回し、深く口づけた。
「渡さない、自信はある。」
 本当に、自信に満ち溢れた瞳の色だ。尚敬の中のペニスがドクンドクンと大きく脈打ち、硬度を増した。
「大きくなった。」
 目蓋を閉じ、照れながら言う。
「僕はもう、由弘なしでは、生きられない。」
 その台詞にやられた。摩擦なしで射精した。
「ご…めん」
 背中に腕を回され、「もう一回」と言われたときには、はっきりびっくりした。尚敬は本当に淫乱になったな
。いや違う。素直になったんだ。
「イカせて!由弘ので感じさせて!」
 背中に腕をまわししっかりとしがみつくと、はっきりそう言った。四位のことになるとムキになる。原因が俺
だと分かっていても嬉しいと思ってしまう。
「尚敬がそばにいてくれるなら、他はいらない。」
 本当だ。君がそばにいてくれるなら代わりはいらないんだ。
「四位は福永のだから。」
 あいつは、今、何を考えているのだろう?


「そういうことか。」
 翌日。
 尚敬が一番上等なスーツを身に纏い出社した。
 暫くして扉を開けたのは四位だった。
「おはようございます。」
 相変わらず気の強そうな瞳に僅かに微笑む口元。少し伏せた視線で戸口に立つ。
「又こちらでお世話になります。今度は一ヶ月ほどになると思います。」
 四位はあの頃に比べると性格が数段丸くなった。それとは逆に、尚敬はピリピリしている。
「四位君、話がある。」
 言ったのは尚敬。
「なんでしょう?外の方がいいみたいですね?」
 言うが早いか、四位はさっさと出て行った。あとを追おうとした俺を制したのは勝浦。
「私が行きます。」
 振り返りもせず、ドアを開けた。外で、何を話しているのだろう?

「先輩は心配しないでいいですよ。子供の喧嘩じゃないんですから、大丈夫です。」
 喧嘩?
「内容は穏やかじゃないみたいだな。」
 ちょっと焦った感じでカツは否定する。なんか…嫌な予感。
 そのまま尚敬も四位も出かけてしまい、カツ&テルも気づいたらいなかった。支社長も朝からいない。
 事務所に一人残され、ポツリと席に座った。瞬きが出来ない。涙がこぼれる。なんで、泣くんだ?
 地位も仕事もどうでもいい、尚敬だけが欲しい。
 携帯電話がメール着信を告げる。
『四位君にはちゃんと話したから。僕は死ぬまで由弘といるから、万が一間違って僕が先に死んだ場合にの
み、権利を譲る。でも四位君は福永君と愛し合ってて他は目に入らないからその権利はいらないって言われ
ちゃった。』
 なんだよ、全く。
 一丁羅なんか着てくるから…あ!
 あいつ、今夜接待か。確か…横浜の女社長…そっちの方が確実にやばいじゃないか!