= 負けないで =
 あかん、絶対にあかん!
 何がってそりゃ、雅治のことに決まってるがな。
 あいつは自分一筋…だよな?違うか?好きや、とは言われるけど一筋かどうかは聞いたことあらへん。
 又焦ってきたわ。駄目や、こんなんじゃ、嫌われてまう。うー、これもあかん。
「何百面相してるんだよ?」
 悩みの元その1登場。
「武さんは、雅治…やない、勝浦と半年間一緒に暮らしてドキドキせーへんかったんですか?」
 武さんは困った顔でこう言う。
「後藤くん。僕は浮気しないよ。横山より魅力的な人に会わない限りはね。残念ながら勝浦くんは落第。」
 なんでやねん!雅治よりいい男や、言うんか?おかしいやん!
「僕には勝浦以上はありえへんです。」
「うん。そういうこと。わかったかな?」
 あ。
 つまり。
「あいつにとってもそういうことってあるんでしょうか?」
 武さんは小首を傾げて少し考えた。
「僕は勝浦くんじゃないからわからないけど。有り得ることだと思う。」
 そやな、うん。
「うちの会社に入社すると、みんな同性にしか恋愛感情を抱かなくなっちゃうね。でもこれは特殊なことな
んだよ?自信をもって交際したらいい。」
 んー。
「僕は、はじめっから勝浦が気になってもうてしゃーなかったんです。」
 あかん、武さん相手に仕事中恋愛相談になってもうた。
「僕も、そうだって言ったら、少しは安心するかな?学生時代はずっと女の子にしか興味がなかったよ?」
「そうなんすか?」
 なんか、めっちゃ嬉しい。
「そうだよ。だから自信を持っていいよ。じゃあね。」
 やっぱり、武さんはええ人や。
 そんなん思いながら、可愛らしいお尻を見つめていたら、横山さんにこずかれた。そりゃ、しゃーないか。


「先輩…」
「あ?」
「同じ男でも、相手の気持ちって奴はやっぱわかんないもんなんですねぇ…」
 あやふやな質問に対して、
「テルのこと?分かりやすそうだけどなあ。カツは頭で考えてから行動するタイプ?」
 横山先輩は本当にいい人だ。
「すみません。なんかいつも同じ質問ばっかりしています。」
 はははっ、と声に出して笑いながら
「しかたないよ、相手の気持ちなんて解るわけないんだから。でもそれを解り合えるようになれるのが理想
だよな。」
 こくり、頷いた。
 もう、あいつに恋する時期は終わった。


 家に帰ると尚敬からテルの話を聞かされた。あの二人、もっと話し合いの時間が必要だ、うん。
「でも由弘、いつもあの二人悩んでばっかりいるよね。」
「俺たちだって昔はそうだったじゃないか。」
「うん。」
 互いにそこにいるのが自然な関係になるまでに随分時間を要した。あいつらもきっと自問自答しながら、
色々話し合いながら、自分達の形を見つけていくのだろう。
「頑張って欲しいな。」
「うん。」
 カツ、テル…負けるなよ。