= 負い切り =
 四位勝美、若干24歳。しかし既に将来を誓い合った運命の人と出会いました。
 初恋は多分、幼なじみのなおちゃん。今の会社の上司です。
 次は中学の時。生徒会長をやったとき、一緒に生徒会だった書記の女の子。名前は…
忘れました。
 暫く部活に励んでいて恋愛とは無縁(コクられるのは日常茶飯事)になり、就職。
 初恋と思われるなおちゃんの旦那?横山さんに横恋慕。彼は僕の新人時代の教育係。
 彼とは実は初めての経験をした。
 僕が童貞で処女だったのは、秘密だ。


「あっあっ…んーっ」
 毎日の様に繰り返される、愛の交歓。
「愛してる、勝美…」
「あんっ、僕も…んっ…愛して…あはんっ」
 毎日毎日、こんなんでいいのかと疑問に思うけど、気持ち良すぎて止められない。ひたすら
欲望に忠実なのだと、自らに言い聞かせる。
「四位、最近色っぽくなったな。」
 月に数回、相変わらず横山さんと顔を合わせる機会がある。ある日ふとそんなことを言われ
た。
「武さんもそうみたいですけど。」
 悔しいので言い返す。
「そりゃ、俺が毎晩可愛がっているから。福永もそうだろう?」
 ま、そうだけど。
 しかし。横山さんがどんな風になおちゃんを抱いているのか、想像が出来るだけに生々しいの
と同時に、胸の奥深くにジェラシーを感じる。
「ごめん。」
 気付いたのか、横山さんはそれっきり、からかうのを止めた。
 自分から好きになって告白した。初めての人だし、嫌いになったのではないから、忘れられな
い。
 だけどなおちゃんと約束したから。
 なおちゃんは僕が由弘さんと愛人関係になったのを知ってからよそよそしくなった。以前は懐か
しんでくれたのに、今は係わりを避ける上に、苗字で呼ぶ。
 ま、僕がなおちゃんの立場だったら同じことをすると思うから仕方ない。
 でも。もしもなおちゃんが死んでしまって功一も死んでしまったら、やっぱり会いに行くのだろう
か?


「勝美…」
 功一はベッドに入るとすぐに僕の足の間に自分の脚を強引に捩じ込む。そうして脚を開かせる
のだ。
「あ」
 何故か今夜は抵抗したくなり、脚を開かなかった。
「どうした?腹でもこわしたか?」
 功一は優しい、いつも気遣ってくれる。
「うん」
 はっきりと肯定も否定もせずに僕は腕を彼の体に巻き付けた。
「功一は僕のどこが好き?」
 毎日の不安はこれだから。
「気が強くてはっきりしているところ。ついでに美人だしセックスの相性もいいしな。勝美は?」
 え?僕?
「セックスに相性なんてあるの?」
 功一が背後から僕を抱きしめた。
「気持ちよくない?俺とのセックス。」
「ううん、気持ち…良い。」
 言った後、物凄く恥ずかしくなった。
「いくら好きでも相性が悪かったら気持ち良くなれないときもある。うん。」
 …確証はないみたいだ。
「ねぇ…もしも。もしも僕が死んで、武さんが死んじゃったら、横山さんに会いに行く?」
「死ななくても会っているけど。違うのか?」
「ううん、そうだよね。」
 そう、何時だって会える。生きていれば会える。
「横山に、抱かれたいのか?」
 拾われてきた子犬のような瞳で見つめられた。
「ううん。功一との相性が良いのは今言われたばっかりだよ?」
 功一の腕に掌を当てる。
 貴方の前では、飾らない僕がいる。貴方の横では素のままでいられる。
 だから、今がいい。
 結婚と恋愛が違うって言う意味が、ちょっとだけ分った。
 でも今夜は小休止。
「明日は追い切りだ。」
 何?それ?



負い切り…レース前に行う最終調整の為の調教。