= ステイヤー =
 ちょっと前の話。

 玄関ドアが開く音がする。今夜も自分担当の上司が部屋を訪れる。
 好きだと言われた。しかし自分にはそれに応えることが出来ない。
 嫌いなわけではない。でも好きな人がいるときは、どんなに好きだと言われても、何か事故でもない
限り、気持ちは動かない。
「由弘」
 会社に居るときは決して呼ばれないファーストネーム。
「何?」
 まるで少女のように恥じらいながら俺のシャツの裾を引く。
「座れば?」
 高人はただ黙って寄り添うのが好きだ。
 食事の時も隣、テレビを見るときも隣、寝るときは腕の中にすっぽりと収まる。
 多分、彼は気持ちが“女”なんだろう。
 一度だけ、「手を、触れてもいいか?」と、聞かれた。
 最初、何を言われたのかわからなかった。視線の先を辿り気づいた。
「あ、うん。」
 服の上から、優しく手を触れた。
ビクンッ
 跳ねるように、重感を増した。
「直接、触ってくれた方がいいな。」
「駄目だ。」
 それだけ言うと高人の手は離れた。
 高人には婚約者がいる、上司の娘だ。
―意気地なし―
 何度、声に出さずになじっただろう。
 嫌いじゃない、と告げてある。それは好きになる可能性があるということだ。
―もしかして―
 そうだ、きっとそうだ。彼は男とセックスしたことがないから戸惑っているんだ。会話の中に入れてあげ
なきゃやり方がわからないんだ。
 でも…どっちなんだろ?
 ねこ?たち?ねこは無理だろうな。性格はねこだけど。
 最近、武のこと思い出すより高人のこと考えていることが多くなった。


 裸を見たいと言われた。ついにセックスする気になったのかな?裸で抱き合い、キスして、で…って?
 何もしないの?抱き締められただけなんて…
「高人、セックスしないか?」
 したいのは俺だ。高人が武の替わりなのか、本気なのか、確認したい。
 屹立した高人のペニスを自分のアナルにあてがうとゆっくりと腰を落とした。
「はっ…あぁっ…」
 受けのセックスなんてどれくらい振りだろう?なのに、気持ち良い。
「あんっ」
 女みたいな声が出る。そう言えば前のセックスの時はひたすら痛くて泣きそうになった気がする。
「たか…人」
 深く貫かれてはぎりぎりまで抜かれて、こすり着けるように回されたり、バックから貫かれた。
「好きだ。」
 高人が俺の中でイッて、まったりとまどろんでいた。
 突然抱き寄せられ、告げられた。
「ごめん」
 あと一押し、欲しいんだ。
「そうか」
 しかし高人はあっさり身を引いた。
 もしかしたら俺と地の底まで落ちる覚悟は無かったのかも知れない。


「んっんんっ」
 必死で声を押し殺しているのは尚敬。
 泣かせているのは俺。
「尚敬の中、気持ち良い。」
「馬鹿…あんっ」
 思い切り深く突き入れる。
 ねぇ高人、貴方を抱いていたら、泣かせていたら、今ごろこうして泣かされていたのは貴方だったかも知
れないよ?

 風のように駆け抜けて行った貴方。
 おやすみなさい、また明日。



2005年3月10日引退された岡部騎手に寄せて…長い間お疲れ様でした。