= ヒーローインタビュー =
「邪魔なのは百も承知だ。だけど…ここに泊めて欲しい。」
 両手を合わせて拝んでいるのは、僕らの同期入社で社長の息子、専務の福永功一。
「勝美が…家出するとしたら藤田のところかここか、どちらかだから。」
「家には来ないと思うよ。」
 尚敬がかなり冷ややかに言い放つ。
 四位勝美は福永のパートナー。でもその前に僕…横山由弘…と、一時期情を交わした仲だ、僕には
武尚敬という恋人がいるにも関わらず。
そしてその尚敬と四位はその昔、幼なじみだった。その二人の仲を険悪にしてしまったのが僕だ。
「前の時も藤田君のところだったし…」
 藤田英彰は四位の同期。仲がいいのか悪いのか、良く分からないけれど何かあると駆け込むので、
それなりに交流があるらしい。
「福永くんが、由弘に会いたいだけでしょ?」
 再び、尚敬が冷たい言葉を投げつける。
「武、お前さ、さっきから言葉がいちいち痛いんだけど。俺は、横山に振られたの、武に片想いしている
から嫌だって言って。なのに岡部さんとは半同棲なんだからな、納得できない。」
「同棲なんてしてないって。岡部さんが家に来ただけだから。いつも飯食って帰ってた。たまに泊まって
いってたけど、セックスしたのは一回だけだよ。」
 先日、尚敬には告白済みだから、今更隠し立てはしない。
「ええっ、本当に?寝たんだ…知らなかった。」
 福永がびっくりした顔で僕を見ている。
「だって誰にも言ってないから。」
 ちらっと尚敬を見たが、黙って携帯電話の液晶画面を見詰めていた。
「藤田くん、いないって言ってる。」
 どうやらメールを読んでいたらしい。
「横山から電話してくれないか?」
「番号知らないから。」
「教える」
「ヤダ。今更あいつの個人的な電話番号知ってたりすると、またお前に食って掛かられたりして面倒にな
るからな。…泊まっていくならリビングのソファがベッドになるから、そこで寝て構わない。けど僕たちのこ
とには関わらないで欲しい。」
 暗に『性生活を邪魔するな』と言っていたのだけれども、福永には通じなかったようだ。
 尚敬が小さく、ため息をついたのを僕は見逃さなかった。


「今夜こそ、したかったのにな…」
 ベッドに入ると耳元で囁かれ、僕は心底ドキドキしていた。
「いつも勝美ちゃんに邪魔される。なんで由弘はそんなに男にもてるんだろう…妬けるな。」
 尚敬が僕の胸に呟く。
「でも僕は尚敬を愛してる。誰にもそう言い続けてきた。今だってそう言い続けている。」
「うん」
 ピピピッ、ピピピッ
 尚敬の携帯電話がメール着信を告げる。
「家に、帰っているらしい…勝美ちゃん。」
「教えてやるか?」
「いいよ、朝で。福永くんにはいい薬だよ。」
 言い終わらないうちに、玄関のドアが開いた。
「…家主に断ってから出て行って欲しいよな。」
 クスクスッ
 尚敬が笑う。
「やっぱり喧嘩の原因は由弘のことみたいだよ。君が僕に夢中だから、勝美ちゃんは気に入らないんだ
って。」
 …いや、絶対に違うだろう?
「では、そんな人気馬の専属ジョッキーに決まって、見事三冠に輝いた御感想は?」
 クスクスッ
 嬉しそうに又笑う。
「最高に、気持ち良いです。」
 そう言うと僕の唇に唇を押し当てて、痛いほど吸われた。
「本当に、由弘は僕を天国に連れて行ってくれる…」
 僕は、ゆっくりとベッドから降りると、玄関を施錠しに行った。