= 宝塚記念 =
 気に入らない。
 大体なんでこんな物が社内報に載っているんだろう?

「武、横山、福永は毎年のことだけど四位、田中はねぇ。」
 久しぶりに本社に出向いたら腹立たしい。なんで今更社内の人気投票なんかしているんだ?
 学生じゃあるまいし、なにが楽しいんだか。
「田中さん以外は独身じゃないですか」
 ん?
 そういうことか。
「僕、結婚してるよ。福永専務も横山君もついでに四位君も。」
 社内の女性陣はパニック状態になった。
「い、いつ結婚されたんですか?」
 いまにも胸ぐらを掴まれ脅されそうな勢いだ。
「もう…二年かな?よく覚えてないな」
 いつが結婚記念日なんだろう?
「本当、指輪してる」
 一人の子が呟いた瞬間、僕の左腕は引っ張られていた。
「結婚指輪ですね…」
 大きなため息。
「そうだ、田中先輩より少し早い、福永専務より少し遅かったよ、うん。」
 またまたため息。
「横山取締役はいつ頃ですか?」
 聞かれると思った。
「自分のを覚えてなかったからね。関連がなければわからないなぁ。」
 しらばっくれよう。
「武くんと同じ日じゃなかったかな?」
 そう言ったのは今日僕を呼び出した張本人、福永社長だ。
「そうでしたか。では覚えておきます。」
「白々しい」
 コホン
 咳払いをひとつ。
「相変わらず女性に人気だね。」
「いえ、四位くんや武士沢くんには勝てません。」
 二人とも僕の地位を脅かす存在だ。
「また家出したらしいな。」
「そうみたいですね。」
 子供の頃は可愛かったのに今は常に念頭にある勝美の存在。
 福永君と喧嘩するとうちにやってくる。
「会社案内の写真モデルをお願いしたい。」
 考えごとをしていた間に社長の話は進んでいた。
「なんですか?」
「君に会社案内のモデルを頼みたい。」
 胡散臭い。
 昔、同じようなことで当時の上司に悪戯されそうになったことがある。
「四位くんに頼んだらいいじゃないですか。あ、田中先輩がいい!既婚者で社内人気アンケート五位で
した。」
「五年連続トップの君に頼みたいのだが。」
 なに?五年って?
「知らなかったのか?私が毎年指示をしてやらせているのだが。」
 首謀者はあんたかよ。
「兎に角、お断りします。」
「…段々横山君に似てくる」
「コンビですから」
 ……………何かおかしいな?
「そーか、コンビか!なら二人で頼もう!うん。」
 はめられた…正しくはツガイ?ペア?…なんだ?


「あんっ、いやっ、ああっ」
 家に戻ると案の定、由弘が「はめていいのは自分だけだ」と言いながら僕をベッドに押し倒したよ。はぁ。



宝塚記念…阪神競馬場の所在地。有馬記念と同様に出走馬をファン投票で選定。