= ホースシュー =
「あんたの顔なんか見たくない」
 当たり前だ
「お怒りになられるのは承知でこうしてお伺いしました」
 自分で来る、と決めたのに、なんだか絵空事のように感じている。
 恋愛において、自分は誰か一人の人間に縛られることはないと常々考えてはいた。
 しかし幸太郎と関係を作って拘束ではない、ペアリングなんだと呆れていたところだ。
 全く自分の感情がコントロール出来ないでいる。
「全て、私が仕組んだことです。幸太郎くんを挑発してああいった行為に持ち込みました。
 しかし一つだけ言い訳させて頂くとしたら、初めから幸太郎くんをねらっていたのです、好きだか
ら。」
 母親がピクリと眉をはねあげた。
「冗談じゃないわ。私は幸太郎をオカマにするために産んで育てたんじゃないし、大学まで高いお
金掛けて出したんじゃないわ。今まで非行にも走らず、親のいいつけに背くこともなく素直に育っ
てくれたのに。一人息子なのに。孫が欲しいのよ!」
 母親はヒステリックに叫んだ。
「なんと言われようと私達は自分の息子を人見悟空になんかしません。」
 なのに母親は私と決して視線を合わせようとはしなかった。
「諦められないのよ」
 今日、この席に幸太郎はいない。彼に選択させることはあまりにも可哀想だからだ。
「幸太郎は、何と言っているの?仕事もない、甲斐性もない、性格が歪んでいるあなたを愛してい
るとでも言うの?そんな一時の感情で一生を棒に振るのかしら?情けないわ。」
 最後の方は独り言になっていた。
「ずっと、犬を飼っていました。彼は私のいうことなら何でも聞きました。ペアリングの相手も人間の
いいなりです。それでも確かに幸せな一生を過ごすことは可能です。」
 初めて、父親が口を開いた。
「君はうちの息子を犬と同じだというのかな?」
 意外と冷静な口調だ。
「いえ。幸太郎くんは自分の意見をはっきり言える、素直で真っ直ぐな人です。」
 だから、惹かれたのだ。
「ありがとう…だから尚更許せないのだよ」
 何故、許されないのか?それがわかっているから辛い。
 幸太郎に何と説明しよう。
「初めから判ってはいました。ただ、彼をもて遊んだのでも、なぐさみ者にしたのでもないことだけ
は理解して頂きたい。」
「何をどうやって理解したらいいって言うのよ!」
 ヒステリックな声で叫ぶ。
「あなた、幸太郎は会社辞めさせましょう。連れて帰りましょう」
 もう、どうしようもなかった。


「あの子、我慢出きるかな?」
 僕は松永に知人を紹介したものの、果たして続くかどうかが不安だ。
「武士沢が着いていくと決めたんだから良いんじゃないか?」
 尚敬が澄ました顔で言う。
「いつか、ご両親が許してくれるといいけどな。」
 武士沢は会社を辞め、松永は内定を取り消し、二人でうちの実家からほど近い競争馬を生産し
ている牧場で働いている。


ホースシュー…蹄鉄のこと。Dr.○パさんが幸せのお守りと言ったことから現在ペンダントヘッドが大流行