= 関屋記念 =
「おはよう」
 毎朝、目覚めると必ず尚敬はじっと僕を見つめながら照れ臭そうに朝の挨拶をする。勿論、この
腕の中に決っている。
「おはよう」
 僕は幸せな気持ちで満たされて挨拶を返し、唇を重ねる。
 これが休日なら、このままセックスへと雪崩て行くのだが、生憎今日はまだ金曜日。
 あと、一日。


「だから!そこは日本の最果て、北海道ではなかったか?」
『そうだ。いや、こっちではなく現場へ頼む。不本意ながら四位を派遣してある。』
「余計いやだな…で、現場は?」
『新潟』
 社長の息子が同期で、自分の元恋人を伴侶にしていると言う現実はかなり辛い。逆らえないん
だ。
 知らなかったといえばそれまでだが、功一が勝美に想いを寄せていたなんて想像もしなかったし
、それにも増して勝美を散々泣かせた負い目と、僕が功一の想いに応えられなかった負い目。ダ
ブルんだよな。
 これで尚敬との楽しい週末は泡と消えた。


「で?何があった?」
「競馬が新潟開催なんですけどご存じでしたか?」
 僕は真面目に頭を抱えた。
「功一、来るのか?」
 勝美はニヤリと笑うと首を横に振った。
「最近、あなたに会いに行かないから逆に不安になったようです。たまには会っていいと言うので遠
慮しないで来ました。ここなら武さんはいませんしね。」
 こいつら、なにを寝惚けているんだ?
「松永さんと武士沢君がいるはずなんですが。」
 僕はがっくりと肩を落とした。
「何で、知ってる?」
 皆には牧場だと言ったのだが。
「功一と松永さんは同期です。」
 あの、馬鹿。
「ま、それは冗談として功一に隠し事は無理です。」
「わかった」
 あの二人は中央競馬のトレーニングセンターにいる。下働きならいくらでも仕事がある。
 兄貴のツテで押し込んだ。
「たまたま先週のレースをテレビで見ていたら松永さんを見掛けたんです。たぶん他の人は気付か
なかったんではないでしょうか。本当にちらっとしか映ってませんでしたから。…功一にも言ってま
せん。」
「言わないで来たのか?」
「はい、由弘さんとセックスしてくるって言ったら笑っていました。」
 勝美が優しい瞳で微笑んだ。
「そっか。じゃあ今夜はダブルじゃないとだめかぁ。」
「はい」
 余裕の微笑みだ。
「幸せ…か?」
「愚問です」
「わかってたけど確認したくなったんだ。」
「世界一幸せです。」
 真っ赤な顔してうつむいた。
「だから二人にも幸せになって欲しいんです。」
 僕は思わず勝美の髪に指を差し込みくしゃりとかき混ぜた。
「ダメ…です。そんなことされるとその気になります。功一は由弘さんほど…あっちは巧くないです
から。」
「そうなのか?」
 それはいいことを聞いた。功一をゆするネタができた。
「じゃあ、ひとまず競馬場へ行って松永のニヤけた顔でも見てくるか。」
 ついでに武士沢に家に戻るよう言わなくては。
「で?仕事の方は?これから行くのか?」
「それは月曜日に決っているじゃないですか!いまどき土日に業務のある会社は皆無ですね。」
 得意気に笑われた。
 また、騙された。


関屋記念…以前、新潟競馬場があった場所が関屋だったのを記念して設立されたレース。