= 夏休み前 =
「振替休日って、由弘はいいけどさ、僕は普通に土日休んでるんだから岡部社長に言い出しにくいよ。」
「うちの兄貴の一生でも掛けていいからさ。」
 無理難題だなぁ。
「勝美の誘惑に負けそうなんだ…」
 うっ…
「…わかった…」
 携帯電話を持つ手に力が入る。
 勝美ちゃんの名前を出されると弱い。それが情けないんだ。
「それでさ、月曜の夜までには帰るつもりだから…」
「やだよ!」
 もうっ!どうして無理難題ばかり言うんだよ。


 月曜の夜十一時。玄関キーの開く音がした。しかしチェーンを掛けてあるので派手な音をたててドア
は虚しく中途半端な位置で止まっている。
 玄関の外で聞き慣れた呼び出し音が鳴る。
「由弘だって保証がないと開けられない。」
「尚敬、愛してる。」
「勝美ちゃんとセックスした?」
「してない」
 押し殺した声が携帯の受話口からと玄関ドアの向こうからステレオで聞こえる。
「福永くんは?」
「今回は関係ないから。」
「関係ないって…二人っきりで会った?」
「大声出すぞ」
「出せば?」
「ごめん」
 不承不承ドアチェーンを外す。
 ゆっくり、ドアが開く。
「僕は!」
 抱き込められ、深く口付けられた。
「物凄くいい!」
 素っ裸の上に真っ白なワイシャツを着て待っていろと言われ、素直に聞く自分が嫌だ。
 内心、エプロンじゃなくて良かったとさえ思ったんだから。
「もう、嫌だからな!」
 うん、という音みたいな返事は承諾か相槌か。
 そのまま僕は朝まで眠らせてもらえなかった。


 翌朝…といっても時間は昼近く。目覚めた僕は汗と精液で体がベトついたのでシャワーを浴びようと
由弘を起こすことにした。
「由ひ…」
「し…」
 由弘の唇が確かに四位と形作った。
 途端に頭にカーッと血が上り、僕は自分で由弘に対して淫らな行為をいたしてしまった。とほほだね。


チャポン
 狭い湯船に大の大人の二人が無理矢理嵌っている。
 由弘の腕はいつでも僕を抱き締める。
「へんな夢をみたんだ。」
「ヘン?」
「うん。尚敬を抱いていたのに途中で四位に替わっていた。珍しく三日も二人でいたからかな。
四位に怒鳴ってた、尚敬を返せって。今の僕には尚敬のいない毎日が許せないな。」
 …ごめん
「由弘…好きだよ。どこにも行かないから。」
「行かれてたまるか。」
 由弘との夏休み。今年はどうしようかな。