= 秋祭 =
「やっぱり似合わないよ」
「何言ってんだか。世界中の誰も尚敬の浴衣姿には敵わないよ」
 去年の夏、買ってもらったのに結局一度も着なかった浴衣、今年は着ている男が多いから思いきって出し
てみたけどやっぱり恥ずかしい。
「かなり、やばいかな」
「やばいって?」
「神社の奥に連れ込んで犯したくなるかも」
「…じゃあ着ないし行かない」
「あー!ごめんなさい!カツとテルの仲直り確認も兼ねているから大丈夫、僕も着るし。」
 勝浦くん?後藤くん?
「プライベートも上手くやっていることを見せてやろうと思ったんだ」
 そうか。
「勝浦くんが好きになった女の子ってどんな娘?」
「得意先の事務員で男みたいにさっぱりした娘らしい。一回寝たからもういいって言われたってさ。」
「…下手って、こと?」
「前戯が気持ちよくないらしい。それだけ女の子に気持ちがなかったってことだろ?テルはカツに従順だか
ら、何でもしてくれるけど…あくまで想像だよ」
 どうだか
「でもさ、後藤くんは納得したんだ」
「それを確認するのが僕の使命」
 なるほど


「武さん…」
 なに?一体何があった?
「横山先輩の浴衣姿、そそられますね。」
「そそ…?」
 欲情するってこと?
「勝浦くん、後藤くんの気持ち、考えたことある?」
 せっかく四人で楽しい時間を過ごそうとしているのに、これじゃあ台無しだ…と思いつつもつい言葉にして
しまう。
「武さん、いいんです…僕は…平気やから…」
 声に力がない。
「雅治が隣にいててくれるだけで、それだけでいいんです。」
 なんだかムカムカしてきた。
「それは恋愛じゃない」
「わかってるんやけど、雅治でないとあかんのや」
 見た目はがっちりしていて、体育会系なのに、勝浦くんのことになるととても気弱になる。
「武さん、違うんです。テル、ごめん」
 勝浦くんは前から取引き先の専務に気に入られていて、断りきれない接待を受けた。そこでしたたかに飲
まされ酔わされ、潰れてしまった。
「彼女と寝たのは記憶にあるんだ。だけど…間違えて…」
 アナルセックス未遂。
「それで一回寝たからいいのか。」
 それでも後藤くんにうしろめたくてつい、冷たい態度になってしまった。
「会社への責任もとるつもりだったけど、テルと離れるのが無理だった…だろ?」
 さっきまで一人で金魚すくいをしていた由弘はみんなわかっていたみたい。
「テル、いっぱつぶん殴ってやれよ。それでカッチャンは気が済むから。」
「そうだね」
 由弘は、好きになって勝美ちゃんと寝た。僕も後藤くんと同じように黙って受け入れた。
「仕返しに浮気なんて出来ないもんね。」
 後藤くんが苦笑する。君も僕も意外に一途だから。
「たこ焼き、買いに行こうか」
 大丈夫、二人は大丈夫。