= マイル戦 =
 クククッ
 まただ。
「もう!何がおかしいんだよ」
 さっきからずっとこの調子で松永さんは思い出し笑い。
「だってあの武がさ、横山に向かって『由弘ぉッ』なんて甘えた声出しているんだ、笑わずにいられる
かよ。新人研修のときずっとぶっちょう面で人の批判ばかりしてた奴がさ…」
 言ってまた笑う。
「その研修で横山は開口一番に武に手を出すなと言いやがった。オレがゲイだと気付いたらしい。」
 まだ笑いが止まらない。
「コウの同期は集まって飲み会したりしないのか?俺らは毎月集まっていたなぁ」
 ちょっと懐かしそうな視線を僕の背後にある、遠い風景に向ける。
「ないほうがいいかな」
と、付け足した。多分僕の表情を見たからだ。
「昨日入厩したパーレインだけどさ…」
 光麻が競馬に全く興味がなかったのは意外だ。わずか半年ですっかり馬に詳しくなった。
 横山さんの紹介でトレーニングセンター内の店で働いていたけど、朝早くから調教師や騎手たち
を見ていた光麻が調教師になりたいと言い出した。
 今は厩舎のバイトをしながら勉強をしているところだ。
「歌枕かつらぎ調教師ってイギリスで勉強したらしいよ」
などと新しい情報を仕入れてくる。
「牧場で生産したいな」
と言った所「それこそ海外で修行しないと良い馬なんか生産できない」と叱られた。
 でも、楽しそうな光麻のそばにいられるのはうれしい。
 馬に接していると安心する。
 光麻の言う通り生産ではなく調教の方が良いかもしれない。走っている間はいつも一緒だ。
 でも…
 競馬学校の受験資格は29歳までなんだ
 …まだ言わないでおこう… 
 ま、調教師免許の受験資格は28歳以上だからね…地方競馬の調教師は毎年免許の更新をしな
ければいけないってことは…知らないよね?
 どっちに進むんだろう?
「コウ」
 光麻が僕をコウと呼ぶときは今夜は寝かせてもらえない。
 ―俺はゲイだけどアナルセックスはしないんだ―そんなことを言っていたのはどこのどいつだった
だろう…
 部屋に戻ると服を脱ぐのも待てないほど性急に求めてくる。
 横山取締役を笑うことなんかできないくらい、僕に惚れてるの、気付いてないんだよな、きっと

マイル戦…1600メートルのレース
※競馬学校の受験資格は19歳まででした。お詫びして訂正いたします。