= クリア =
「そうか…」
 イライラする。
「はい」
 煮えきらないなぁ。
「まぁ、子供のことは女性に任せるのが一番だよ。」
 あーあ。
「柴田所長は…」
 きーっ
「いい加減本題に入りませんか?」
「あぁ、すまない」
 柴田所長がやっと田中さんとのまったりした日常会話を打ちきる。
 これじゃあ由弘…ぢゃない、横山さんも心配だよな。
「福永専務は何だって?四位」
 やっと存在を思い出してくれた。
「池袋の勢いを八王子に活かして欲しいそうです」
「なら…」
 ちらりとあたりを見渡して
「田中次長だな」
二人は見つめ合うと頷きあう。
「いえ、池袋に所長、次長、大西の三名のみ残り五名は八王子へ異動、四名は他営業所から補填、残り一
名は…私です。」
「何、別居?」
 田中さんがニヤニヤと笑いながら問う。
「いえ、専務は本社に戻られます。」
 支社、行けなくなったな。
「私の下…なのかな?」
「はい」
「ふーん」
 な、なんだ?
「専務が出入りするのか」
 はっきりと不快な色が表情に見てとれた。
 ま、かくいう自分も功一は苦手だった。
「出来るだけ自分の仕事に専念するよう伝えておきます」
「了解…川崎、結構行く用事があるけど平気か?」
 あ、柴田所長は心配してくれてたんだ。
「はい。私の中ではあの男性に対する気持ちは何一つ変わっていません。」
 そうだ、変わってはいない。
 ただ手が届かないだけ。
「そうか」
 そういうと柴田所長はなんだか寂しそうな視線を僕に投げてよこした。
「勿論…」
「のろけは聞きたくない」
 田中さんに拒否された。
 相変わらず二人には不思議な空気が漂っている。
 二人の間には恋とか、愛とか、そんな感情以上のものが通っているのかもしれない。
 何れにしろ凡人には判らない領域。
 っていうか…僕は好きな人とは抱き合いたいだけなんだけどね。