= ワイド =
「いやだ」
 聞きわけのいい子を演じるのはうんざりだ―
「とか思っているだろ?お前ほど扱いづらいヤツはいないぞ。挙げ句のはて女とは一緒になりたくないと
か言い出して。お前に会社の跡を継がせる気はない。」
 まじで?
「由弘?」
「ばか。あいつはお前ととんとんだ。いや、仕事はピンポイントで使えるかな。…あの二人は二人でやっと
一人前だ。―四位と、別れろ。あいつに嫁をとらせて一人前に仕込む。」
「ちょっ…」
 冗談じゃない。あいつだけは何がなんでも守る。


「何だよ、これ。」
 リビングテーブルの上に白い、写真屋で撮らなければ入れてくれないご丁寧な裝丁のものが無造作に
置いてあった。
「お義父さんが今日持って来られたけど。功一になんでしょ?」
 少し怒っている。
「親父はお前にって言ってたゾ」
「じゃあ簡単だ、明日返して」
 開きもせずに勝美は突き返してきた。
「大体失礼だ。僕達はまだ別れていない」
 まだ―かよ。
「お前に嫁をめとらせて跡継ぎにしたいらしい」
 勝美がきょとんとしている
「功一がお嫁にきてくれるの?僕はてっきり、嫁に来たと思ってた」
「ばか!お前は男なんだからどっちでもないだろ?そんな風に考えていたんだ」
「だって…」
 言ってうつむく
「功一が家事を手伝ってくれないから」
「…ごめん」
 そーきたか
「…その娘、総務部のみゆきちゃんだよ。功一を狙ってる」
「中見たのか?なんだ…あの娘は勝美ばっかり見ているじゃないか」
 えーっとか言って抗議されたが請け負わない
「勝美のこと狙ってる娘は多いぞ」
「そんなこと…ない。僕、会社じゃ人見知りするから無愛想だし…」
 …人見知り…
 なんて…なんて…
「そういうことだったのか。」
「どういうことだよ」
「いやいや…」
 親父から勝美を守る方法、見つけた。


ワイド…馬券の種類。一着から三着の間に二頭入れば配当がある。