= 露天風呂 =
「ばーか」
 開口一番、福永はそう僕に向かって言った。
「あの親父がなんの目的もなく人事を執行するかよ。まず後継問題。次は松永だよ。あいつをなんとしてで
も連れ戻せってさ。」
 やっぱり。
「先輩、皆で温泉いきませんか?」
 カツが突然提案してきた。
「な?」
「松永さんが納得すればいいんですよね?」
「ああ…?」
 何がしたいんだか…。
「あ!」
 尚敬が突然叫ぶ。
「松永くんって無類の温泉マニアだったよ、よく覚えていたね」
「他の男の趣味なんか覚えててよく上手くいってますね」
 間髪入れず四位が突っ込む。
「テルが優しいから…」
 かなりリアル…。
「四位は相変わらず嫌味なヤツやな」
 テルが応戦…だと思う、弱気だけど。
「イライラすると言ったら柴田さんと田中さんですよ!みていられない」
「見なきゃええやん」
 場がしらける。
「とりあえず松永にメール入れてみる」
 仕方がないので話を元に戻す。
「日本酒ならまだあるよ」
 尚敬が台所へ向かう。
「あの二人はあのまんまにしといてやるのが一番ええ思うんや。違うか?子供やないさかいこっちが色々ゆ
うてもラチがアカンちゃうか?」
 二人には家庭があるじゃないか。
 ナカはあれでいいんだ。
 暫くしてメールの着信を告げる音楽が携帯電話から流れる。
「行きたいってさ」
 松永から先日、夢が叶わないことを聞いた。
「競馬の調教師って学歴とか年齢制限、経験なんかが問われて結局ダメらしいんだ」
 武士沢を養うことが第一関門だと言っていたのにいきなり挫折だ。
「親父は新入社員を採用するときに全員役割を考えているらしいんだ。一人でも欠けるとそれを他でカバー
しなきゃいけないからだったら連れ戻せってさ。」
「なんだかそれって社長の掌でもて遊ばれているみたいだな」
 カツは複雑な表情をした。
「なんの役割もない人間よりいいと思いますよ。」
「四位、相手を考えて話をしろと教えなかったか?福永以外のやつに好かれないぞ」
「いいです、別に。」
 言ってからまずいと思ったけど意外にも反論してこなかった
 今度は携帯電話の着信を告げる音楽が流れる。
「なんだ。松永だよ…え?近くに来てる?早く来いよ」
 10分後松永と武士沢が到着するとそのまま都内にある露天風呂へ直行した

 …旅行の予定だったのにあいかわらず松永はせっかちだ